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兵庫県の山奥、そのまた奥に、ひっそりと立つ曹洞宗安泰寺。そこには青い目をした僧侶がいる。檀家を持たず、田畑を耕し自給自足の生活で禅の修業に励むドイツ人、ネルケ無方僧侶(堂頭・住職)だ。

ネルケ無方僧侶は1968年、ドイツの西ベルリンに生まれる。7歳の時に、母親をがんで亡くし、幼くして生きることの意味を問うようになる。小学校3年生の頃には「人間って一体、何の為に生きているのだろうか?」「そもそも生きる意味は何だろう?」と哲学的な疑問を持つように。しかし、牧師をしていた祖父や、周囲の大人たちに疑問をぶつけても、誰もまともには答えてくれず、失望する。今の日本で言えば、引きこもりのような暗い退屈な日々だったという。
そして、16歳の時、通っていた高校の「禅メディテーション・サークル」で禅に出会う。一度参加するだけで止めるつもりだったが、禅の経験の中にはこれまで見出せなかった人生に対する疑問の解決や生きる指針があったという。頭でっかちに思考することでしか生きてこなかった当時のネルケ無方僧侶が、座禅によって頭を手放し、身体を発見した体験は、将来、禅僧になることを決意させるほど大きな経験だった。
その後、ドイツのエリート校、ベルリン自由大学へ進学し、物理学、哲学、日本語を専攻。入学前に一度、来日、そして22歳の時、京都大学への留学生として再び、日本へ訪れる。留学時代に京都の寺で座禅を組む接心に参加、そこで、修行者が住み込みで毎日、座禅をし、自給自足の生活を送る安泰寺のことを知ると半年で大学を辞め、安泰寺へ入門。

来日し、観光向けの商売や形式だけの葬式ビジネスになった日本の宗教や信仰心のあり方に、期待を裏切られたネルケ無方僧侶。安泰寺や、専門僧堂での修行の日々もまた、想像とは大きくかけ離れたものだった。詳しくは安泰寺HP『火中の蓮』(http://antaiji.dogen-zen.de/jap/index.shtml)をお読み頂ければわかるが、「庭詰め」といった二日間にわたる玄関での座り込み、金属製のバケツに入ったご飯を吐いても食べ続ける「バケツでご飯」。トイレに行くことすらままならず、オムツの使用を後輩から指摘されたり、暴力的とも考えられる行為もあったという。厳しいという言葉では言い表せないほど辛く苦しい修行生活だった。
しかし、そんな極限状態の中で、いつしか自分は生きている。生きる意味が問題なのではなく、生かされていることこそが生きる意味だと、体感していく。初めて禅にハマッた時と同じ、頭からの知識としてではなく、身体経験として感じたのだった。

1999年には堂頭の資格である嗣法を受け、その後、独立した座禅道場を開くため、下山。大阪城公演にテントを張り、「ホームレス雲水」生活を開始する。朝の座禅道場だった。
しかし、2002年、軌道に乗り始めていたネルケ無方僧侶の生活が一変する。急逝した師匠の後を継ぎ、九代目住職(堂頭)として再び、安泰寺へ。

現在では国内外から訪れる年間100人超の参禅者の指導を中心に活動している。8ヶ国語からなるHPを通し、情報を得た海外からの来訪者は全体の2/3を占めるという。朝3:45から夕方の20:00まで寺の修行者と共に座禅をし、農作業も行う。阪神方面を中心に月に一回から、二回という割合で公演も行っており、プライベートでは大阪で知り合った女性と結婚し、2児の父親という面も。
また、2010年には新潮新書から出版予定で、現在執筆中とのこと。これからも日本で活躍する青い目の僧侶から目が離せない。

「安泰寺」
兵庫県美方郡新温泉町久斗山62
TEL:0796-85-0023
http://antaiji.dogen-zen.de/jap/index.shtml

(Written by 石川陽那)

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