病棟で患者さんと会話をしたときのこと。
「この点滴には、栄養剤が入ってるんですか」
「いえ、ナトリウムやカリウムは入ってますけど、ビタミンなんかは入ってないですよ」
「そうなんですか。味の素の点滴だから、てっきり栄養剤が入っているのかと思ってました」
なるほど、意識したことがなかったが、確かに、「AJINOMOTO」と点滴ラベルに書いてある。
「この点滴には、栄養剤が入ってるんですか」
「いえ、ナトリウムやカリウムは入ってますけど、ビタミンなんかは入ってないですよ」
「そうなんですか。味の素の点滴だから、てっきり栄養剤が入っているのかと思ってました」
なるほど、意識したことがなかったが、確かに、「AJINOMOTO」と点滴ラベルに書いてある。
味の素株式会社は、コンブのうまみ成分グルタミン酸を製造し「味の素」として売り出した企業。調味料のイメージが強い。そのため、患者さんは、味の素→調味料→食べ物→栄養と結びついたのだろう。科目で言えば「家庭科」だ。
しかし、薬剤師にあっては、味の素→グルタミン酸→アミノ酸→アミンとカルボキシル基を持っているから、酸性・塩基性どちらの性質も持つことがある……と、「化学」系の連想が続いていく。食品会社が化学物質の一端である薬を扱っていても、なんら不思議を感じない。
このように、食品を扱っている企業が医薬品も扱っていることは珍しくない。明治製菓は有名なうがい薬のイソジン、乳酸菌飲料の代名詞ともいえるヤクルトは抗悪性腫瘍剤を扱っている。反対に「製薬」の名を冠する大塚製薬は、薬よりもポカリスエットやカロリーメイトが有名だ。
また、日本で最も古い国立試験研究機関は、「国立医薬品食品衛生研究所」という。医薬品だけでなく、食品の安全性や食品添加物、更には食品用器具・容器包装等の品質と安全性に関する研究までも行っている。
医薬品も食品も「ヒトの口に入る」という点は同じであり、化学物質の抽出、分析などの手法は近いものを使うことがある。その歴史や手法を学んでいる薬剤師ならば、医薬品も食品も「口の中に入る化学物質」というカテゴリーで、両者を近くに感じているはずだ。
「良薬口に苦し」と言うが、これはジェネリックが広がって変わってきた。有効成分は同じで、薬としての効き目は同じジェネリックでも、先発品と味や臭いが違うことがある。甘みを持たせるだけでなく、清涼感をつけたり、剤形を変えてみたり、苦い薬をどのように飲みやすくするかと、企業努力が見られる薬剤もある。実際、先発品で値段が高くても飲みやすいほうがいい、という患者もいる。
まだまだ先発品の方が味もいいものが多いが、「おいしいジェネリック」「飲みやすいジェネリック」が開発されていくと、今後、薬の選択にも幅が広がってくるだろう。そのあたりを食品企業と製薬企業が連携していけば、ジェネリックを価格ではなく、味で選ぶ時代も来るかもしれない。
ということは、薬剤師として、どれが何味か覚えなければいけない時代がやってくるのだろうか。気軽に味見のできない「薬」なだけに厄介になりそうだ。
(Written by 富野浩充)
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しかし、薬剤師にあっては、味の素→グルタミン酸→アミノ酸→アミンとカルボキシル基を持っているから、酸性・塩基性どちらの性質も持つことがある……と、「化学」系の連想が続いていく。食品会社が化学物質の一端である薬を扱っていても、なんら不思議を感じない。
このように、食品を扱っている企業が医薬品も扱っていることは珍しくない。明治製菓は有名なうがい薬のイソジン、乳酸菌飲料の代名詞ともいえるヤクルトは抗悪性腫瘍剤を扱っている。反対に「製薬」の名を冠する大塚製薬は、薬よりもポカリスエットやカロリーメイトが有名だ。
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医薬品も食品も「ヒトの口に入る」という点は同じであり、化学物質の抽出、分析などの手法は近いものを使うことがある。その歴史や手法を学んでいる薬剤師ならば、医薬品も食品も「口の中に入る化学物質」というカテゴリーで、両者を近くに感じているはずだ。
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まだまだ先発品の方が味もいいものが多いが、「おいしいジェネリック」「飲みやすいジェネリック」が開発されていくと、今後、薬の選択にも幅が広がってくるだろう。そのあたりを食品企業と製薬企業が連携していけば、ジェネリックを価格ではなく、味で選ぶ時代も来るかもしれない。
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