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大阪の町工場から2010年4月、1台の電気自動車(EV)がデビューした。
真っ赤なボディにタイヤが3つ、そして3人まで乗車できるEVは“牛車”をイメージして製造されたという。
名前は「Meguru(めぐる=環)」。このEVの開発に携わったのが、大阪府守口市の金属加工業、淀川製作所の小倉庸敬(のぶゆき)社長だ。

決して大企業ではない中小企業ばかりが集まって、長引く経済不況や大手メーカーの海外シフトなどを逆にバネに「関西の経済を活性化させたい」という思いで完成させた新たなEV。
数々の逆境を乗り越えたエピソードは当時、世間の注目を集めたものの、小倉社長の夢はまだ始まったばかりだという。

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小倉社長は1957年生まれ。守口市で育ち、途中、実家のある愛媛県松山市で葬儀業を手伝っていたが、再び守口市に戻って父が社長を務める淀川製作所に入社。そして1998年に肺がんで余命半年の宣告を受けた父の後を継いで社長に就任した。

守口市はあの『パナソニック』の企業城下町として知られる。だが今、当時の面影はほとんどない。小倉社長のまわりでも倒産、工場閉鎖、リストラなどが後を絶たず、受注もどんどん減る一方で「膨れ上がる赤字と資金繰りに追われる日々だった」という。

そんな中、2009年春にたまたま参加した環境技術の勉強会でEVに関する講演を聞いてEVの構造がそれほど複雑でないことを知り、実は小さい頃から夢だった「クルマづくり」への想いが再燃する。そして「うちみたいな町工場でもEVが作れれば、この“閉そく感”から抜け出せるんやないか」と思い付き、勉強会で知り合った京都EV開発(京都市城陽市)をはじめ、知人の女性設計士と九創設計室(兵庫県尼崎市)にEVのデザイン、さらに知り合いの近畿刃物工業(守口市)に車体部品の製作を依頼するなどして「あっぱれEVプロジェクト」が誕生。しかも大阪府から地場産業に対する補助金も交付を受けることになった。

だが、まず社員に打ち明けると「社長、何言いだすの」「会社をつぶす気か」などと反発を受けた。なんとか説得して2009年10月から製作を開始したものの、予算の関係で車のデザインはあっても設計図がなかったり、ピッタリの金型を作るのに何度も試行錯誤して作り直したり。資金はどんどんなくなっていき、最後は小倉社長自ら「なんとかまけてくれまへんか」と関係先に“値切り作戦”に出たほどだった。

そして補助金交付の期限である2010年3月末になんとか完成し、4月5日、全国紙やTVキー局など大勢のマスコミの前で「Meguru」はお披露目された。「完成の喜び、というよりも肩の荷が下りた開放感でいっぱいだった」と振り返る小倉社長。
現在、その夢と希望に満ちた「Meguru」は日本全国を回り、さらに「できれば100万円以下で」というEVの量産化にも動いていて、小倉社長はまだまだ忙しい日々を送る。

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ちなみに今回、この「Meguru」に小倉社長の運転で試乗させてもらった。EVとあってモーター音はとても静かでほとんど揺れを感じない乗り心地はさすが。バッテリーにリチウム電池を使って家庭用コンセントで約2時間充電すれば40kmほど走れるといい、最高速度は時速40km。国土交通省から3輪バイクとして許可を得て公道を走ることもできる。

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なによりデザインが女性らしくてとてもおしゃれ。座席がピンクのソファーなのをはじめ、車の床には竹を敷き詰め、ドアは大きな扇子、車体は朱色の漆塗りと「和」へのこだわりをとても感じた。「このEVは『メイド・イン・ニッポンなんや』。日本にはええもんがまだまだたくさんある。名前の通り、全国に元気がめぐっていってくれればええなぁ」とのことだ。

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「あっぱれEVプロジェクト」の奮闘ぶりをまとめた書籍『町工場のおやじ、電気自動車に挑む』(組立通信、小倉庸敬著)も発売されている。なんでもやってみないとわからない、夢をみんなで実現させた“パワー”をぜひとももらってほしい。

(Written by 飾磨亜紀 Aki Shikama)


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