■「心のスウィング」連載から
新井 「りかちゃん」を書いちゃうと、「少女生理学」や今までの作品が描けなくなっちゃって。昔はコレしか描けないと思ってたんですけど(笑)
富野 「少女生理学」は、ほのぼのしてて、スッと読めました。
新井 好きなように描かせて頂いてたんで。一番楽しかった仕事のあたりですね。
富野 連載作品の「心のスウィング」はどうでしたか。
新井 これは、初めての連載だったんですね。大学1年生の頃だったから、結構苦しくって。
富野 薬学部だと1年目から実習が多いし、その都度レポートもありますし、厳しいですよね。
新井 「なかよし」ってまだ小中学生が対象の頃だったから、このときに、もうちょっとそっちに寄った話を描いてたら、また人生違ってたんだろうな。
「心のスウィング」は、お父さん絡めた時点で失敗だったかなって思います。でもこのときは、かたくなに担当さんとケンカしながら、「この話を描く」って通したんですけど、どうしてそんなに固執してたのか、今になると自分でもわからないですね。
私は基本的にキャラクターを作るんじゃなくて、エピソードから話を作る方だったんで、読み切り向きだなって痛感したのがこの作品でした。
富野 連載と読みきりは作り方が違うんですね。
新井 連載はキャラクターがまずあって、それが動いていくんですけど、それがどうもだめなんですよね。キャラクターを作るのが出来ないままやってて、初めてキャラクターを作れたのが「りかちゃん」だったんですよ。お前何年やってるんだよって話ですけど(笑)
富野 たしかに「りかちゃん」は登場人物それぞれ色がありますね。
新井 キャラクターさえ作れば、あとの話はどうとでもなるんだなあっていうのが、やっとこの作品でわかった(笑)遅すぎるだろって。でもそこは、はじめが若過ぎたってことで(笑)
富野 そうですね、デビューが中学の…。
新井 中学3年です。
富野 すごいですよね。受験生じゃないですか。よくそんな余裕がありましたね。
新井 高校は受かると思っていたので。ヤなヤツですよね(笑)
ただ、その当時の担当さんが「受験勉強はちゃんとやったほうがいいから」って言って、ある程度の時期になると「仕事一旦お休みしましょうね」っていうスタイルで。で、高校2年のときに「じゃああとは受験勉強しましょうね」って言われたときは「いや、まだ先!」って(笑)
富野 むしろ描いていたかったですか。
新井 描いていたかったですね。
■座敷わらしみたいになってます
富野 そういえば部屋の間取りが描いてありましたね(※)。
※「心のスウィング」に、「あらいの仕事場」と題して、部屋の俯瞰図が描かれている。
※「心のスウィング」に、「あらいの仕事場」と題して、部屋の俯瞰図が描かれている。
新井 当時テレビがなくって。テレビがなくても人間暮らしていけるもんだなって。今はだいぶ変わりましたけど。部屋自体は変わってない。
富野 そうなんですか?
新井 引越ししてないんで。
富野 大学のときからですか?
新井 はい(笑)座敷わらしみたい。大家さんも、こんなはずじゃ、と思ってるだろうな。
富野 ええー、じゃあもう10年以上…。
新井 20年近いですね(笑)いざ引っ越すときにどうすればいいんだろうって思いますよね。きっとあの押入れの中が4次元に繋がってるんですよ。そのうちドラえもんが出てくるんじゃないかと。
富野 そうですか。じゃ、これ部屋はこのままなんですね。
新井 間取りは変わってないです。配置が微妙に変わっただけで。
富野 あとテレビが増えたわけですね(笑)
新井 テレビが増えました。でもそれも地デジがまだで、どうしようかなと。ないならないで普通に生活できるかなと思っていますけど。ダラダラ点けてるとテレビって疲れちゃうんですよね。
■原稿はアナログ派
新井 基本的に、私はカラー原稿って苦手なんですよ。目を逸らしたくなるような(笑)コミックハイの仕事のときに「単行本出ますよ、表紙どうしますか」って言われて、「なるべくカラーが少なくてすむ構成にしてください」って言ったくらいです。
富野 で、この「少女生理学」が出来たわけですか。
新井 そうです。このときのデザインの担当さんがすごくツボで、「ノートみたいにして欲しい」って言って、うまくやってくれたんです。それで「りかちゃん」もその人に頼んだんです。それまでは「カバーのデザインで希望の人はいますか」って聞かれて、「誰ですかそれ」って感じだったんです。「なかよし」だと有無を言わせずフォーマットが決まっている感じなので。しかしカラーは辛い…。
富野 カラーは、何で描いてるんですか。
新井 「心のスウィング」は、溶ける色鉛筆を使ってた気がします。「薬屋りかちゃん」はコピックですね。
一時CGも描いてたんですけど、私はものすごくしつこくWindows98を使ってて、さらに結構な時期までネット環境がダイヤルアップだったので、データにして、送ってっていうのがまったく出来ない環境だったんです。なんであんなに頑なだったんだろうと。
富野 環境変えるのは、やっぱり……。
新井 メンドクサイが先に来ますね(笑)
富野 ですね。引越しとかするといい機会になるんですけど(笑)
新井 またその引越しがないもんだから余計に。世間様が「光」とか言ってるときに、やっとADSLにして、「早い!」って言ってます。職場は光なんですけど、別にそこまで差を感じないかな。
実はコミックハイの仕事をしてたときに、まだダイヤルアップだったので、「カバーのデザイン案です」ってファイル送られてくると重い…(笑)まず届かない。通信中に切れちゃうんですよ。でも、これを受けないと残りのメールも受けられないっていう状況で。
文字だけならいいですけど、画像になっちゃうと、重くなるので…。編集さんにしてみたら、直接行くこともなくなったりして、楽になったのかもしれないですけど。
富野 締め切りも余裕が出来るでしょうし。
新井 そうですね。でも私は、パソコン画面をずっと見ながら作業が出来ない気がするんです。
富野 アナログ派ですか。
新井 アナログ派ですね。「クレームマネジメント」の連載を始めるときも、データ入稿の説明をされたんですけど「いや、無理です」って(笑)
富野 そうしたら、日経の連載は手書きですか。
新井 紙です。思いっきり紙です。クロネコさんの着払いでお願いしますって言って送ってるんです(笑)
富野 多少はデジタルが入ってるかと思っていました。
新井 入ってないです。一人でトーンを貼って、削って、とかやってます。もともと人にあんまり手伝ってもらわずにやってたんで、人にお願いすると、指示出すのがメンドくさいんです(笑)。一人の方が早く上がります。
富野 じゃあ、この「締め切り間に合わないから手伝って」っていう話(「少女生理学」第2章)は、実際にはないわけですね。
新井 基本的には。さすがに「3日で仕上げろ」って言われたときには、厳しいと思いましたが。
■本をよく読みますが…
新井 アナログなんで、電子書籍はあんまり好きじゃないんですよね。紙のほうが安心するっていうか。本はやっぱり紙がいいですね。
富野 本は結構読まれるんですか。
新井 本は好きな方です。図書館が充実してて、夜遅くまで開いてるので、しょっちゅう借りて。買えよって話なんですけど(笑)、あの部屋に本はそんなに詰め込めないから。よっぽど好きな作家さんは、ハードカバーで欲しいけど、文庫落ちするのを待つくらいならなくてもいいや、借りればいいと。有川浩さんの最初の自衛隊三部作(「塩の街」「空の中」「海の底」)とか、買ってたんですけど。
富野 有川さん、「図書館戦争」が漫画にもなりましたね。
新井 うーん、ああいうのはあんまり受け入れられないんです。文章のものって、それぞれのイメージがあるじゃないですか。それを映像化とか画像にされちゃうと、イメージが違うっていう。描いた人や演じた人のせいじゃなくて、単純に、イメージが違うっていうだけなんですけど。
中学生頃に、藤川桂介さんの「宇宙皇子(うつのみこ)」っていう作品を、すごい好きで読んでたんですけど、友達が、映画を見に行こうって言うので行ったんです。でも、それがあまりにヒドくって読むのをやめちゃった、っていうことがあって。それ以来原作が好きなものは、他の媒体に移っても見ないようにしようと思ってます。
富野 なるほど。それは私も経験があります。だから、「ノルウェイの森」も見なかったです。なんで今更っていうところもありましたが。
新井 見ようって気がまったく起こらないです。村上春樹は、「ノルウェイの森」よりも前の作品が好きでしたね。「ノルウェイの森」が、バーって売れちゃったので、流行りに乗ってる感じがして嫌だとか思って(笑)
富野 やれやれ(笑)
新井 やれやれ(笑)で、なんであれを映像化するのかよくわからない。「1Q84」が売れたから、とか思っちゃうんですよ。
富野 「1Q84」は読みました?
新井 読んだんですけど、book3は蛇足だな、4を出す気満々だな、と思いました。村上春樹はやっぱり昔の作品が好きだな、と思います。
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薬剤師同士ということで、この他にも、薬の話やそれを取り巻く情勢などから包装デザインの話まで、色々盛り上がりました。新作も期待してます!
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新井葉月さんが漫画を描く「実践!クレームマネジメント」は、日経BP社の発行する雑誌「日経DI」にて連載しています。
薬局に降りかかる様々なクレームを3P漫画で、それに対する解説を1Pで掲載しています。
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(Written by 富野浩充)
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