今まで書いていた「山と便器」に変わり、山岳映画について書いていきます。
第1回【劔岳 点の記】
「八甲田山」などの日本映画で有名なカメラマン、木村大作。その木村大作氏の初監督作品が「劔岳 点の記」です。
■映画のあらすじ
それまで未登頂とされていた剣岳に三角点を置くべく、軍から命令された主人公柴崎(浅野忠信)は地元のガイドである長次郎(香川照之)と共に、剣岳登頂の道を探りつつ、同じく初登頂を目指す日本山岳会の小島(仲村トオル)らとどちらが先に初登頂ができるかを競い合う。果たしてどちらが先に剣岳に初登頂できたのか。その先に彼らを待っていたものとは!?
新田次郎の原作があまりにも有名なので、その先に彼らを待っていたというのはネタバレになるが、頂上付近の穴には平安時代に置かれたであろう修験者の剣と錫杖があったというもので、彼らは本当の初登頂者ではなかった。
という話。
■誰が一番最初に登ったかとかそんなことはどうでもいい
物語の中では、雪を背にした時に剣岳に登ることができるという昔からの言い伝えがあり、いわゆる裏剣方面からだったら登ることができるよ、ということで、雪の残る三ノ沢方面から剣岳への登頂を成功させる。
現在はいろんなルートから剣岳登頂ができるけど、それでも鎖があったり、どうやっても足をかけたり手でつかむような取りつきがないようなところには鉄製の棒みたいなものが設置されていたりして、ザイルとかカラビナとか登攀技術のない一般登山者の自分たちも登ることができるわけである。
とは言っても、一般登山のルートの中でも技術を要するというよりかは、度胸と体力、天候の運を要する山なので、そう簡単には登ることはできないとは思うのだが。
今までの努力、高度感に慣れる、好天という運を見方につける、など様々な経験を経て剣岳登頂を成功した人たちにとっては、映画の中でもそうだったけど、誰が一番最初に登ったとかそんなことどうでもよくなってしまうくらいの達成感があるんじゃないか。
■「長次郎さん、先にどうぞ」ごっこをする
映画の中で、いよいよ剣岳の頂上だというところで、柴崎が長次郎に先に行くよう促す場面がある。映画自体は、雪崩に巻き込まれたり、滑落してもなんとなく話は進み、本当に抑揚がないなー、役者の演技とかそういうこと関係なく、監督はこの景色を撮りたかったんだな、多分。この大画面でも実際の景色はもっと凄いからな、というくらいに絶景を背に物語は淡々と進んでいく。
そんな物語の中で自分が一番印象に残ったのが、この、長次郎を先に促す柴崎の行動なのだが、これを実際に山登りの時にやってみるとどうなるか。
はっきりいって山に登っている時に「長次郎さん、先にどうぞ」ごっこなんて思いつかない。自分はそこまで余裕がない。この前山に登った時に、自分の前を登っていた相方が急に立ち止まり、「先にどうぞ」と言ってきた。一瞬意味がわからなかったけど、「長次郎さん、どうぞ」という続けての言葉に、「あ!今、劔岳点の記ごっこしてるんだ!」とそれまでひたすら頂上に向けて歩いていた自分の感情が急に現実に戻った。余裕がなかった自分に全く別のこと考える余裕ができる。すると、今までは足元ばかり見ていた視線が周りの景色を見る。
自分も負けじと「どうぞ、どうぞ、」と相方を促す。人一人しか登れない登山道ではないので、なんとはなしに並んで頂上まで登ってみる。周りの景色を見ながら。
■「劔岳 撮影の記」を観てみる
撮影がいかに過酷だったか、メイキングが映画になってしまうくらいドラマチックだったということが伺えるように、「劔岳 点の記」のメイキング「劔岳 撮影の記」が制作されていたので昨日DVDで観てみた。
順撮りで撮影していた。木村大作って大物なんだな、と思った。
■とにかく風景がすごい
以上のように映画「劔岳 点の記」は物語の内容はさておき、山の景色の風景描写がすごいことになっている。浅野忠信とか香川照之とか、日本を代表する役者陣で固められた登場人物より風景が勝っている。とにかく風景の存在感が圧倒的なのである。そして、どんな山でもいいから山に登ってからこの映画を観ると、よくこんな映画作ったなぁ、とただただ感動するばかりだと思うので、この順番で観てみるといいかもしれない。