その地域に受け継がれてきた食文化、郷土料理。
有名な郷土料理には山梨県「ほうとう」や沖縄県「ゴーヤチャンプルー」などが挙げられるが、未だ全国に知られていない郷土料理は意外と多い。

大分県佐伯市。ここに昔から伝わる漁師飯「ごまだしうどん」がある。大分県南部に位置するこの町は、江戸時代に「佐伯の殿様、浦でもつ」と言われたほど古くから漁業が盛んな地域。昔から佐伯の漁師はこの「ごまだしうどん」を好んで食べているという。

「ごまだしうどん」の作り方は実に簡単。その名の通り「ごまだし」と言われる調味料を、うどんに溶いてできあがり。他の調味料は加えなくてよい。まさに天然素材のインスタント食品。
「時間がないときも、さっと食べられるように―」 常に海と向き合わねばならない漁師は、食事の時間がゆっくり取れない。そんな夫を想う妻の愛情から「ごまだし」は生まれたのだという。

その「ごまだし」が、日本野菜ソムリエ協会が主催する「調味料選手権2012」で万能調味料部門の最優秀賞を受賞したことにより一躍有名になった。受賞したのは、佐伯市の漁家の女性たちが作るグループ「めばる」。その「調味料選手権2012」の様子はテレビ番組でも放送され、その後「めばる」に注文が殺到した。

それでも安易に量産体制は組まない。漁村女性グループ「めばる」の「ごまだし」は、その日に水揚げされた魚だけを使うので、漁模様によっては生産できないのだ。代表の桑原政子さんはこう話す。
「美味しい魚と良い鮮度。これらが揃わなければ美味しいごまだしは作れません。」

佐伯市では一般家庭でも作っているという「ごまだし」。桑原さんはその作り方をじっと見て覚え、ビンに詰めたのだという。魚の頭と内臓を取り除いた後、魚を焼いて、胡麻と一緒にすり合わせ、醤油を足して仕上げる。母から教わった、佐伯に受け継がれる伝統の味だ。

桑原さんは、その「ごまだし」を若い世代に食べてもらいたいと話す。
「若い世代で魚離れが進んでいると聞きます。でも魚が嫌いなわけではないと思うんです。きっと魚の処理や調理が面倒なのではないでしょうか。そんな面倒くさい作業はおばちゃんが引き受けるので、もっと若い世代に魚を食べて欲しいですね。」

例えば「ごまだし」という形で―。もっと若い世代に魚を食べて欲しいと願う桑原さん。
もともとは漁師を想って生まれた「ごまだし」だが、うどんだけではもったいない。万能調味料部門の最優秀賞というだけあって、実にいろいろな料理に合うのである。チャーハンやパスタ、ラー油をプラスして「ごまだしタンタン麺」にしても美味しい。オリーブオイルを加えてバーニャカウダにするのも桑原さんのオススメだそうだ。

ときどきは佐伯のおばちゃんの優しさを思い浮かべながら、いただきたいものである。 

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