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6月下旬ごろから岩手県久慈市を飛び出し、ヒロインのアキがアイドルを目指す姿が描かれていく後半戦「東京編」がはじまった「あまちゃん」。
初回視聴率から20・1%、その後も安定して20%越えをたたき出している。人気の脚本家を起用したとあってクドカンのファンまで視聴層に流れている。テーマ曲も人気で、“朝ドラ”のサウンドトラックがオリコン5位という異例の好ヒットとなっている。

そんな「あまちゃん」ブームの影で、初回19・8%から始まって平均視聴率17・1%、従来の朝ドラにはなかったものに挑戦したことが裏目にでて不評とされているのが、前作の「純と愛」。
NHK「視聴者対応報告 平成25年3月」によると、放送開始から終了までにNHKに寄せられた意見11,477件のうち、NHKのいう“厳しい意見”は6,456件と、過去3作品の2倍近くにのぼったのだとか。

「純と愛」の大きな特徴といえば、週に2〜3回やってくる不幸ごと。レギュラーにもゲストにも「いい人間」が1人も出てこないから、出鼻からいい人風のキャラクターが出てくるといつ裏切られるのかとヒヤヒヤしながら見られるのもたまらない。
後半のみどころは、「もう絶対無理!今週中に終わらない!」と思った木曜日の8時13分頃、さっそうと現れて問題(不幸)をたちどころに解決させる若村麻由美さん演じる姑のベジータ感。他にも、狩野家一番のグズだった末っ子・剛の急成長など、徐々に引き込まれる内容だったのだが、1.1万人のうちの6,500人はそれを「朝ドラらしくない内容」とバッサリ。

「あまちゃん」と同じように、脚本には人気のある作家を起用し、大阪から宮古島への移動があり、視聴層である奥様に人気の速水もこみちがMOCO’S キッチンの延長戦的に見られるドラマだったのに一体どうして・・・。
そこで、これまでに朝ドラを10本以上視聴している「朝ドラウォッチャー」のみなさんに、前作「純と愛」と今作「あまちゃん」についてアンケートを行った。

まずは、これまでに視聴してきた朝の連続テレビ小説のなかで、最も好きな作品について聞いた。
結果は以下のとおり。

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※その他、2票以上を獲得したのは「あぐり」「純情きらり」「あすか」「いもたこなんきん」「おんなは度胸」「風のハルカ」「雲のじゅうたん」「チョッちゃん」「つばさ」「てっぱん」「鳩子の海」「ふたりっ子」
(エフプレス 朝ドラを10本以上連続視聴している方対象 n=185)

1位は「朝の連続テレビ小説」として代表的な作品といえる「おしん」。今作の「あまちゃん」はまだ最終回も終わっていないのに第2位と、このブームが嘘ではないことがうかがえる。

ちなみに「純と愛」は1票も入っていない。逆に、過去3年で10位以内でないのは同作と2010年下半期の瀧本美織主演「てっぱん」のみで、近年放送された作品に名作が多いのかもしれないが、単純に最近のものなので、より印象が強く残っていることによるランクインと考えると、「ちゅらさん」「おはなはん」あたりが朝ドラの名作といえそうだ。

そして、「純と愛」不人気の理由については、このように分析しているようである。

●現実的ではない家族関係。主役の夫婦があまりにも現代的で、高い年齢層には不向きかもと思いました。(神奈川県 53歳 女性)

●今までの朝ドラにはない展開、ある意味面白かったが「家政婦のミタ」の脚本家の方との前評判が良かっただけに残念なドラマ。主人公の大声でわめき、話す場面は朝からキツかったです。(埼玉県 49歳 女性)

●朝から不条理感満載のドラマにあきれた。ちゅらさんと同じ沖縄ものだけど、なんかテーマがあいまい。自分探ししすぎ、武田鉄矢さんを生かし切れなかった。役者さんはよい方がいっぱいいたのに、ストーリーがだめだったとおもいます。(東京都 45歳 女性)

●あまりにも現実離れしている。また、全般的に内容が暗かった。(神奈川県 59歳 男性)

●ドラマの展開が暗かった。上手くいかないことの方が多すぎて前向きになれない。救われない気持ちになる。朝見るには重すぎる内容だった。(北海道 55歳 女性)

まとめてみると、ダメだと思うポイントは「ストーリーが暗い、ツラい」「ヒロインが気にくわない・夫が超能力者」の2点のようだ。やはり、「純と愛」の金看板であった“不幸”が裏目に出てしまったようだ。そんな不幸に対して目をひん剥かせキーキー喚きながらそれを受け入れていったヒロインも「朝からウルサイ…」と暑苦しい印象を与え、それをスーパーパワーでもってアシストした彼氏もまた、「現実離れしてる…」と朝ドラにリアリティを求める多くの視聴者には合わなかったようだ。
内容は悪くなかったが、「朝ドラ」という枠に収めるのはちょっと違う、ということであった。

もちろん「面白かった」とする意見もある。

●信じられない。自分的には大好きなドラマだったし、「梅ちゃん先生」よりも好きだった。想像だがご年配の主婦層が多く見る時間帯なので夏菜のキャラや、ちょっとおふざけも入ったストーリーが受け容れられなかったのかも?!自分はそこが好きだったのだが・・・(東京都 53歳 男性)

●不人気だとは思わなかった。勤め先の特養の利用者さんには好評でした。特に純のお母さんが若年性アルツハイマーになってしまうところは涙して見ていました。8時になると「NHKにして」とよく言われました。(東京都 45歳 女性)

夜のドラマっぽいストーリーや夏菜のリアクション芸、カザポン一家のSPECをどう捉えるか、ということが、人によって「純と愛」の明暗を分けるポイントのようだ。

ちなみに、現在放送中の「あまちゃん」についても聞いてみた。

●何も考えなくても笑える箇所が多いから、観ていて安心。あっちこっちにギャクや何やら散りばめているのも、分かる人にとっては楽しい。老若男女問わず、いろいろな層が楽しめるのだと思う。80年代を懐かしく思う者もいれば、若い人にとっては新鮮に思う何かがあるのではないでしょうか。若いアキちゃんの奮闘ぶりはこちらも元気になるような気がします。(東京都 44歳 女性)

多くの意見があったが、こちらのコメントに総意が濃縮されている。楽しくて可愛くて懐かしい、安心できる。これらが朝ドラのヒット要素なのだろう。

前述の通り、「何も考えなくても楽しめる」というのは、裏を返せば印象に残りにくいということにもなりかねない。ランキングにもそれが表れているように思う。
回答の中には「“純と愛”がしんどかったので次回作はお休みにした」という人が一定数あるほどディープだった同作は、あとからジワジワくる作品だったのかもしれない。同じアンケートを10年後に取って、「純と愛」がランクインしているといいが・・・。

(Written by 笹川太志)