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7月15日、都内で、歴史好き・幕末好きが多く集まるイベントが開催された。
それは、「勝海舟フォーラム」である。
勝海舟像が建立後の2004年から、毎年、海の日に墨田区で行われている勝海舟の顕彰イベント。
例年は海舟ゆかりの地のウォークラリーの後、銅像を建てる会に尽力された日大名誉教授や歴史家の講演やライブなどで構成されていたが、今年は、10周年記念として「海舟ゆかりの子孫大集合」と題した、子孫たちのパネルディスカッションが企画された。
メンバーは、幕末の偉人・勝海舟、坂本龍馬、坂本乙女、榎本武揚、ジョン万次郎の末裔の5人。「5人の子孫がはじめて一堂に会す」とイベント開催前から報道されている。
当然ながら、主に古い書物から推察する研究家たちの話とは違った、血縁者が書物に加え、リアルに体験してきた話、祖先の話をするところに魅力がある。
「入場無料 先着500名」の事前発表に、参加者は710人以上(顕彰会事務局発表)。会場は北海道から九州までの顕彰会のメンバーおよび一般の歴史ファン等で埋め尽くされ、立ち見も余儀なくされた。

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冒頭30分は式典。舞台上に備えられたミニチュアの勝海舟像に献花の後、主催の勝海舟顕彰会の会長、各関係団体からの挨拶。墨田区長からはこの秋に葛飾北斎美術館を建設する計画の発表があったり、勝海舟の銅像を建てる会から今までスタッフとして関わってきた山口千鶴子さんに事前告知なく花束贈呈を行ったりというサプライズもあった。 
そして、勝海舟の玄孫(やしゃご)・五代目の高山みな子さんによる基調講演。


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現在放送中の大河ドラマ「八重の桜」に関係したエピソードを披露。主人公・八重の夫である新島襄の墓碑銘は勝海舟が揮毫したもの。八重さんとは佐久間象山塾で兄の覚馬さんと一緒だったころから関係があったため、新島襄さんが亡くなった時、八重さんに「新島襄之墓」の揮毫を送った。しかし墓碑をよく見てもらうとわかるが、‘島’の横棒一本足りない。まわりも気づいて、送る前からも言われたが、海舟は「いきおいで書いてしまったんだから、もう書けないよ」と、そのまま送ってしまった。それに対して、八重さんはクレームもつけず、そのまま墓碑に使用された。だから、いまも、京都にある同志社大学の共同墓地の「新島襄之墓」の墓碑の字は横棒一本ない。まさに海舟らしいエピソードだ。
 
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続いて、メインイベントの子孫パネルディスカッション。高山みな子さんが引き続きマイクをとり、子孫パネリストに質問していく形でモデレーターの役を務めた。

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登壇したのは榎本隆充さん(榎本武揚 曾孫)、坂本登さん(坂本龍馬実家坂本家九代目)、岡上汎告さん(坂本乙女 曾孫)、小西圭さん(ジョン万次郎 玄孫)の4人。
冒頭、先祖がどんな人だったのかを含めて自己紹介。
坂本乙女 曾孫の岡上汎告さんは「近目で毛が薄かったという部分が乙女の血を引いています」と、ご自分の頭をなでてみたところで、会場は笑いの渦に。
続いて、名前の由来(当然、偉人の)や家族・親戚からの言い伝え、今でも持っている遺品の話。 先祖のことが書かれている書物から、子孫なりに解釈された意見も披露された。
また、勝海舟と4人のパネリストとの、「海」という共通点を挙げ、5人それぞれの「海」との関わり方と思いに触れた。
話題は愛についてと続いた。榎本武揚は徳川育英会設立から東京農業大学への発展に貢献をした博愛、坂本龍馬は国の未来のために奔走した祖国への愛・人類愛、坂本乙女は、龍馬との書簡の多さから推察できる龍馬への姉弟愛、ジョン万次郎が目の悪い母のためにミシンと写真機を日本に持って帰ってきたというエピソードに代表される母親への愛など。子孫が各先祖の立場になって愛を感じる事例を挙げた。子孫それぞれの話に、会場からはどよめきや感嘆の声が漏れていて、関心の度合いがうかがえた。


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食の話もでた。高山さんが榎本さんに「海舟はうなぎが好きで、武揚さんによくご馳走になった。」と語ったのに対し、榎本さんは「海舟はうなぎというより三本ついた筏が好きだった。本数が多いから好きだったのか?」とか「海舟の普段の食事は粗末だったので、恵まれた食事をされていた龍馬さんのお口には合ったのだろうか?」とか日常的なたわいもない話がなんとも子孫らしい会話に思われた。
締めくくりは、それぞれの先祖と海舟との関わりに至った。高山さんは「それぞれがそれぞれの立場で人や国に熱い思いがあって、思いを達成するために冒険していく精神は、いまでも見習わなくてはならない。東北大震災以来、絆という言葉がよく言われるようになってきたが、どんなことを考えていても海舟ひとりでは何もできなかった。人を大切にしないと生きていけないのだと感じた」とまとめた。
幕末から145年以上の時を越えて、同じ時代を生きた偉人の子孫たちが一堂に会す。まさにここに偉人たちの魂が蘇ってきたような異空間となった。
血のつながりのある人物による話は、どんな歴史学者が話すより、身近で、より説得力があり、親近感も、信頼感も覚える。個人的にはこういうイベントがもっと開催されてもいいと思う。また、このフォーラムに参加することにより、もしかしたら、自分の祖先も偉人につながるのではないか?末裔なのではないか?と自分の祖先について調べてみたいという気にさせられた。
追加だが、このイベント、子孫が子孫を呼んだ。フォーラム終了後、舞台から降りてきた子孫たちに、「私は○○の子孫です」と話しかける他の偉人の末裔の姿も見られた。同じ末裔の境遇であることを分かちあっているようにも思われた。
2013年7月21日、墨田区に勝海舟の銅像が建立されてから丸10年が経過した。
銅像建立からずっとこのプロジェクトを見守ってきた事務局の山口千鶴子さんは「特に皆さんに伝えたいことは、戦後70年近く経ちましたが、日本という国は、戦争なくして語れない。平和でいられることがどんなにすばらしいことか。そのもとが、勝海舟が西郷隆盛と話し合って、江戸の無血開城を取り決めたこと。特に戦争を知らない若い世代の人たちにこの事実を伝承していきたい」と語っている。

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無血開城の印・刀鞘に紙縒り(こより)を結んだ勝海舟の銅像は、隅田川を越え、江戸湾(東京湾)越え、太平洋の向こうの世界を指差している。そして、その意思を子孫含め、私たちが受け継いでいくことが使命と思う。

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(Written by フルタイム 佐藤正子)

協力者の方々のサイト:
勝海舟を顕彰する会 http://www.katsu-kaisyu.net/
鎌倉谷戸の工房 http://www.katsukaishu.jp

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