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全国の温泉地に、誰もが手軽で利用できる「足湯」がメジャーな存在になって数十年。またたく間に足湯は広まり、そのほとんどは無料で利用できる。一方、日本一の源泉数、湧泉量を誇る大分県の別府温泉郷では「手湯」をよく見かける。なぜ足湯でなく手湯なのか――

別府温泉郷の玄関口、JR別府駅。この駅の正面に、誰もが無料で利用できる手湯がある。別府の伝統工芸品「竹細工」の巨大なカゴをイメージしたオブジェの中に、掛け流しの源泉が湧き出ている。土台も別府原産の別府石。

泉質は単純泉(ナトリウム―塩化物・硫黄塩泉)で、手を付けるとスベスベし、しばらくすると体もなんだかポカポカしてきた。朝7時ごろだったが、通りがかったビジネスパーソン風のスーツを着た男性、また通学途中の高校生ら、地元の人々がフラっとこの手湯に立ち寄り、お湯に手を付けて休憩したり、友人同士でお湯を囲んで話し込んだりしているなんとも温泉地らしい、和やかな光景が見られた。ちなみにこの手湯、夜にはライトアップもされる。

この別府駅前のほか、駅前通りの別府ステーションホテル、駅前高等温泉の前にも手湯がある。さらに、手湯から発展したのか、湯布院がある由布市には指しかつけない「指湯」もあるという。

一方、別府駅の手湯のそばに、別府市の観光開発に尽力した実業家・油屋熊八の巨大な銅像もある。この銅像の台座に「子どもたちをあいしたピカピカのおじさん」とあるのだが、まったく知らないと「いったい・・・誰?」と思うはず。

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油屋熊八は、別府ではとても有名な現在の亀の井ホテルや亀の井バスを設立し、日本初となる女性バスガイドによる案内つき定期観光バスを運行した人物として知られる一方、子どもたちに童話や歌などを聞かせ、「ピカピカのおじさん」と呼ばれていたエピソードが残る。いわば、別府の英雄的存在で、手湯と並び、別府駅の正面に堂々とそびえ建っているのだ。
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(Written by AS)