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20世紀で最も偉大な芸術家の1人、サルバドール・ダリ(1904-89年)。異様ともいえる自身の風貌と奇怪な作品の数々を思い浮かべる人も多いはず。そのダリの主要コレクション約200点が今年、京都と東京で「ダリ展」として一堂に会する。ダリの回顧展は日本では10年ぶり。2016年、日本で開かれる最大の美術展としても話題となっているダリ展、一足先に京都会場へ足を運んだ。

スペイン生まれのダリは、1929年に彗星のごとくパリの美術界に登場し、シュルレアリスム(超現実主義)を代表する画家として活躍した。その後、アメリカに進出してウォルト・ディズニーやエルザ・スキャパレリなどとコラボレーションしながら次々と作品を発表し、現代美術の先駆者としての地位を確立した。ダリ展では、スペインにあるガラ=サルバドール・ダリ財団を含む3つの美術館が所蔵する作品を展示する。

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展示室を入ってすぐ、一見、奇妙とも思える空間がある。これは、1974年開館「ダリ劇場美術館」の展示室にあった一角を再現したという「メイ・ウエストの部屋」。ある角度から見ると女優のメイ・ウエスト(1893-1980年)の顔になる仕掛けで、来場者を早速楽しませてくれる。

その後、ポスト印象主義風の10代、キュビスム(立体派)や未来派などの影響が見られる20代、シュルレアリスムを経て、ダリがいかにして奇抜な芸術作品を生み出していったのかが年代別に展示されてわかりやすい。鮮やかな色彩、明確な輪郭線は初期作品から見られ、特に、「子ども、女への壮大な記念碑」は映画『アンダルシアの犬』で腐ったロバを登場させたことから“腐敗”をテーマに、溶けて朽ちていくナポレオン、モナリザなどが作品中に描かれている。

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ダリは、広島と長崎への原爆投下で大きな衝撃を受けた。「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」は黒を基調とし、原爆がもたらす恐怖によって支配される陰鬱な世界が見れば見るほど伝わってくる。「ラファエロの聖母の最高速度」は、原子力をはじめとする科学技術と宗教、古典主義に回帰する重要性から、ルネッサンスの画家ラファエロ風に描いた作品。聖母像が動的エネルギーによって旋回しながら幾何学的な形態に解体されていく様子から、“核”に対するダリの思いが垣間見られる。

1つ1つの作品を奇抜と表現するのはたやすい。それぞれに込められた作品の意図を考えながら見て行くと、かなり奥深いものがあった。夢なのか現実なのか、常識なのか非常識なのか。まるで魔術師のように描いた作品の数々から、ダリの形跡をたどるのは見ごたえ十分だった。

なお、ダリが1960年ごろに和傘を送られ、傘をさして散歩する写真が残されている。この和傘が現在は老朽化してしまい、今回、5代にわたって京都で和傘を作り続けている「日吉屋」に依頼した複製をダリ財団に贈呈するセレモニーも行われた。

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「ダリ展」の京都会場は京都市美術館で9月4日まで。東京会場は国立新美術館で9月14日から12月12日まで。俳優・竹中直人さんが担当する音声ガイドもぜひチェックを。

公式サイト

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ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵
Collection of the Fundacio Gala-Salvador Dali, Figueres c Salvador Dali, Fundacio Gala-Salvador Dali, JASPAR, Japan, 2016.

サルバドール・ダリ美術館蔵
Collection of the Salvador Dali Museum, St. Petersburg, Florida Worldwide rights: c Salvador Dali, Fundacio Gala-Salvador Dali, JASPAR, Japan, 2016.
In the USA: cSalvador Dali Museum Inc. St. Petersburg, Florida, 2016.

国立ソフィア王妃芸術センター蔵
Collection of the Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia, Madrid c Salvador Dali, Fundacio Gala-Salvador Dali, JASPAR, Japan, 2016.