代理母

平成の音楽シーンでは多くの名盤が誕生した。
名盤の中には幅広い層には知られていないが、一部の層にだけ受け入れられ、強烈なインパクトを残した傑作も多い。そんな一部でカルト的な評価を受けた名盤を「平成の怪盤」として紹介していきたい。

今回紹介するのは、1998年にファンクバンド「面影ラッキーホール(現Only Love Hurts)」が徳間ジャパンより発売したアルバム「代理母」。
もともと「いろ」というタイトルで他のメジャーレーベルから発売予定だったが、歌詞に問題ありということで発売が見送られた経緯を持つ。録音を終えていた楽曲も多く、某社で録ったものを別の会社で発売することを例えて「代理母」というアルバムタイトルに変更したという。

このアルバムに収録されている曲名を見てみると
「好きな男の名前 腕にコンパスで書いた」
「あんなに反対していたお義父さんにビールをつがれて」
「俺のせいで甲子園に行けなかった」
「今夜、巣鴨で」
・・・などタイトルだけで、物語を想像してしまうものが多い。しかし、歌詞を聞いてみると想像していた物語とズレがあるのに気づくだろう。
「俺のせいで甲子園に行けなかった〜」はエラーではなく暴力事件を起こして甲子園に行けなかった歌だし、「今夜、巣鴨で」はロリコン爺とメンヘラ少女の恋の歌。「あんなに反対していたお義父さんにビールをつがれて」はそりゃ頑固おやじじゃなくても反対するだろという経緯で娘を妊娠させている。

面影ラッキーホールの歌詞に出てくる登場人物は水商売やヤクザ者、あるいはどこかに問題を抱えている人が多い。いわばDQN哀歌。あるいは路地裏歌謡といったところか。リリックは比喩が少なく詩的というよりも物語的で、意識せずとも頭に映像が浮かぶ。
歌詞を書くのはボーカルでもあるaCKy。評論家の吉本隆明に「この人は上手すぎる程の物語詞の作り手だ」と評されたこともある。

「代理母」は歌謡曲のテイストがふんだんに盛り込まれているため、曲調だけ聞くと昭和の香りもするが、歌詞はまさしく90年代の日本の世相を思わせるもの。まさに「平成の怪盤」である!


面影ラッキーホール "好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた" @ WWW