
彼の名は渡辺魁(かい)。安政5年生まれで島原藩士の息子だった男。
もともと東京に住んでいたが、明治10年長崎に戻ってから遊郭遊びにはまった挙句、三井銀行長崎支店より金を詐取するなど犯罪を重ね、「雇人盗家財物罪」により、22歳の時に長崎始審裁判所で終身懲役の判決を受けた。
しかし魁は、反省するどころか監獄の中で度々規律違反を犯し、三池懲役場という地底での採炭をする懲役場に送られた。
苦痛に耐えかねたのかエネルギーが貯まりに貯まっていたのかわかないが、魁は他の受刑者と、共謀し明治14年ついに脱獄を果たした。
脱獄した魁は猛勉強を重ね裁判官に
当時は今に比べ監視体制も十分ではなかったため、年間1000人以上の脱獄犯がいたと言われているので脱獄自体は珍しくはない。魁がすごいのは脱獄したあと。
魁の父親は、もともと長崎の裁判所職員。脱獄した魁は父と共謀し、戸籍を偽造。「辻村庫太(くらた)」という別人になりすますことに成功。
そして、魁は身分を偽った状態で就職にも成功する。初めは大阪府庁地方税係で勤務。その後、大分始審裁判所竹田支部治安裁判所に転職。そこでは、業績抜群と認められて大分始審裁判所書記にまで昇進する。
さらに魁は自分の身分を安定させるために、裁判官になるための勉強を始める。魁の勉強に対する真面目な姿勢は大変なもので、上司も魁に法律書を貸すなど応援してくれていたという。
勉強を重ねた魁は、明治20年ついに判事登用試験に合格。
合格後、判事試補に任官し長崎始審裁判所福江治安裁判所に勤務することになる。
何の因果か長崎始審裁判所は、魁が終身刑の判決を受けたところ。赴任の挨拶は病気を口実に取りやめている。
昇進、結婚・・・幸せを手に入れた矢先に
福江に赴任してからは順風満帆。
魁は判事試補から判事へ昇進。その後、結婚をして長男をもうけた。
公私ともに幸せを手に入れたように見えた。
しかし、その頃「辻村判事は脱獄囚の渡辺魁に似ている」との噂がたつようになる。
この噂を聞いた福江警察署や検事などが秘密裏に魁の捜査に乗り出す。
捜査の結果、警察は魁が脱獄犯であると確信するに至った。
魁が民事事件での出張中の明治24年2月18日、検事は脱獄犯であると知りつつ魁を守っていた父と弟を逮捕。翌19日、出張先の宿で魁は逮捕される。
宿には10年前、魁を取り調べた検事も訪れ“私のことを忘れたわけではあるまい”と魁を問い詰めた。魁は言葉では否定したものの、後半はしどろもどろになり自白したも同然だったという。
脱獄から10年、福江に任官から4年で魁は逮捕となった。しかし、赴任先が長崎県でなければ脱獄犯であることはバレなかった可能性もある。
脱獄した者の中にはもっと意外な職業に就き、死ぬまで脱獄犯であることがバレなかった者が、もしかしたらいるかもしれない。
魁は途中までは上手く行っていたが最終的にしくじったからこそ、伝説の脱獄犯になれたと言うことができよう。
【参考】
日本裁判官ネットワーク
(Written by 山崎健治)
・麦わらの一味を助ける大冒険!?ピーストレイル〜冒険者と奇跡の泉〜
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