岩手の蔵元・南部美人が生酒を特殊技術で凍らせた!?
液体を凍らせると体積が膨張する。水でも日本酒でも、液体ならそれが一般的だ。しかし体積が膨張しないように特殊な技術で瞬間冷凍させた驚きの日本酒が誕生した。岩手県の蔵元・南部美人は、2年間の研究を経て、「スーパーフローズン(瞬間冷凍の特殊技術)」により、世界初の日本酒の冷凍商品化に成功した。
しぼりたての生原酒と言えば、フレッシュで新鮮な味わいが真骨頂。生まれたての味そのものなので一番美味しいとも言われるが、“火入れ”(加熱処理)していないので酵素が生きたままで、どんどん発酵・熟成が進むのでうまさは刻々と逃げてしまうのが難点。これまでは日本酒専門店の貴重な限定品として味わうか、冬から春にかけて“しぼり”の時期に酒蔵を訪問した人しか飲めないことが多かった。
しかし今回、日本酒を−30℃まで瞬間冷凍(720mlでたったの20分だそう)させるスーパーフローズンの技術により、酵素の働きを“仮止め”させて、冷凍貯蔵できるようになったのだ。
南部美人の久慈浩介社長の動画
同商品のキャッチフレーズは「その酒は、生まれたままの味を記憶している」。生まれたままの味とは…。さっそく試飲してみた。(8月1日からネット通販で購入できる https://www.nanbubijin.jp/superfrozen/)「南部美人スーパーフローズン 瞬間冷凍 純米大吟醸 生原酒 720ml」(税込5,400円 送料別)は、カチカチに冷凍された状態で箱詰めの状態で送られてきた。栓の辺りも一応確認してみたが、冷凍によって酒が膨張した様子は全くなかった。
カチカチに凍った生酒。常温に置くと瓶の表面には霜が付く。
カチカチに凍っているので、常温に瓶を5分も置くと表面が白くなってくる。まずこの見慣れない光景にテンションが高まる。手袋やタオルを使用して瓶を触るようにし、水または常温で解凍、と説明書きには書かれてある。今回は約1時間、常温に放置して解凍してみた(気温により解凍時間は異なります)。瓶の内部に氷の結晶がなくなってきたのを確認してから開封すると良いそうだ。結晶があるうちに開封しないようにご注意!
はたして肝心の味わいはどうなのか? 例えばぺットボトルなどに日本酒を入れて凍らせると、体積が膨張するだけでなく、味わいが劣化すると言われる。「苦味が目立ってきたり、風味が損なわれたりします」と南部美人の久慈浩介氏。
さっそくテイスティングしてみると、生酒のフレッシュ感が想像以上に一気に押し寄せてきた。日本酒に限らず、冷凍したら野菜も肉も風味が落ちるものだが、冷凍したとは思えない力強い美味しさだ。そして苦さやエグミなどは全く感じられず、特に舌の奥に広がる後半のフレッシュ炸裂の感覚は感動的。これは美味しい!まるで蔵で味わっているみたい!生きている味!
生酒は発酵が進むと元には戻らない。しかし瞬間冷凍により、生まれたて味わいを閉じこめ一時ストップさせることができる。解凍すれば見事にそのまま蘇る。しぼりたての味わいを“冬眠”ならぬ“凍眠”させることで、いつでもどこでも生酒を楽しめるようになった。
開封したら、生きている生酒なのでやはり3日間以内に飲みきると良いだろう。翌日、翌々日と味が次第に表情を変えていくのが分かり、その変化も生酒の楽しみの一つ。
裏のラベルにも「凍眠」と書かれてある
南部美人は日本酒の世界一の称号であるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2017チャンピオン・サケを獲得したグローバルな蔵元だ。現在は世界38カ国・地域に日本酒を輸出している。海外で外国人の手にとってもらうために、コーシャ認証(ユダヤ教の認証)や、ヴィーガン認証なども取得してきた。さらに今回は、この冷凍技術のおかげで、これまで流通が難しかった海外などへも安定した品質で冷凍輸送し、世界中でしぼりたての生酒を楽しむことができるようになった。南部美人のグローバル化、今後に期待が高まります!
≪筆者プロフィール≫
▪タッキー
国際きき酒師(英語)&きき酒師。
飲食ライター歴20年の食いしん坊バンザイ!記者&PRプランナー。
日本酒やワインなどもこよなく愛す。
テレビ番組などにも出演中。