落語1

テレビ、映画、ラジオ、ネット動画etc...と、世間にあふれている娯楽なんて山ほどありますよね。
そんな中で、あなたは聞いてますか?

「落語!」

僕は聞いてます。好きなんですよねー落語。思わずフフッと吹き出してしまうものもあれば、なんだかしんみりさせられる話ももちろんございます。
ですが、今この時代に落語を聞き始めようと思う人が、何人いましょうか!(落語家の方に怒られそうですが……)

そこで、今回は、私のおススメ落語ベスト3と銘打って、素敵な落語をご紹介いたしたいと思います。

第三位「時そば」

この落語は有名ですね。“内容を知らなくても、タイトルだけは知っている”という方も多いと思います。
この落語はとても単純で、

ある男が屋台に蕎麦を食べに来た。しかしその男は頭がよく、蕎麦屋をチョロまかして代金を少なく払ったそう。それをはたから見ていた男がおりまして、真似をしてみようと思ったところ、その男が行った蕎麦屋の亭主の方が一枚上手で逆に多くお金を払ってしまう。

という、落語の基本的なストーリーテリングで、初めての人でも楽しく聞くことが出来る噺です。
しかし、初歩的なと言いながらも、この落語には話術の技術がふんだんに取り入れられており、一番の目玉は“蕎麦をすする音”と言っても過言ではないのです。
ただ蕎麦を食べている。ただそれだけの音なのに、落語家さんによって蕎麦が“見える”方と、“見えない”方に分かれてしまう。
そんな、基本的でありながらも、落語の魅力が堪能できるお噺です。

ちなみに、私が落語を聞き始めたのはこの“時そば”を聞いたことがきっかけ。
柳家喬太郎さんという落語家さんがこの話をしていたのだが、どちらかというと枕話(落語の本題に入る前の導入部分)がとても可笑しく、いつの間にか聞き入ってしまいました。
ぜひとも入門にどうぞ。

第二位「芝浜」

コチラも有名な落語ではないでしょうか?
簡単な内容は、

あるところに男がおりまして、その男は全然仕事に行かないダメ男だったそう。お金を稼がないその男の妻が、なんとか仕事にたたき出す。
男は嫌々ながらも仕事に向かうが、その途中に通った浜辺で一つの財布を拾う。開けてみるとなんとビックリ、中には大金が!
大急ぎで家に帰った男は、この話を妻に話す。驚く妻を横目に、男は友人たちを招き、大宴会の準備を始める。
たらふく酒を飲んだ男が良く朝目覚めると、大金が入っていたはずの財布が無い。妻に尋ねると、「そんなものは知らない。夢でも見たんじゃないか」と言われてしまう……。
唖然とする男、残っているのは多額の借金。
しかし、妻には秘密が……

先ほどの“時そば”と違い、こちらは人情噺。笑わせるのでなく、感動させるタイプの落語。だからこそ、落語家さんの実力がふんだんに試される落語でもあります。
借金を抱えた男。そして、その妻が隠していた秘密。それが、分かったとき、その男はそんな行動をするのか、そもそも妻は何を隠していたのか……!
ラストは感動必至のこの作品。今は亡き“立川談志”の語りでぜひとも聞いてもらいたい噺です。

第一位「後生鰻」

落語には“禁演落語”というものがあるのをご存じだろうか。この禁演落語とは、昭和16年、時局柄にふさわしくないと見なされて、浅草寿町(現台東区寿)にある長瀧山本法寺境内のはなし塚に葬られて自粛対象となった、廓噺や間男の噺などを中心とした53演目のこと。つまり、演じてはいけない落語のことです。
戦後の昭和21年9月30日「禁演落語復活祭」によって解除されたのだが、禁演というからにはやはり、どこかブラックな話も多いのです。この“後生鰻”という噺はこの禁演落語に含まれておりました。
内容は、

あるところにとても信心深い主人がいた。夏場に蚊が止まっても、つぶさずに血を吸わせてやるほどの男である。ある日、浅草の観音様の帰り、鰻屋の前を通ると、鰻屋が鰻を捌いて蒲焼にしようとしている。「これこれ、殺生はいかん」そう言って、男は鰻屋から鰻を買い取り、前の川に逃がしてやった。「あぁ、いい功徳をした」。
次の日も、また次の日も、同じように鰻屋の前を通って鰻を前の川に逃がしてやる。
毎日一匹ずつ鰻が売れるという事で、鰻屋の夫婦はウハウハ。仲間もうらやんで「あの隠居付きで、お前んとこ買おうじゃねえか」なんて言ってくるほど。
しかし、ある日を境にその男がパタリと来なくなった。
「馬鹿馬鹿しくなって、他のとこ歩いてんのか」かと夫婦で話している矢先、数日ぶりにその男が鰻屋の前を通りかかる。「痩せてるようだよ。風邪でも引いてたんだろ。くたばる前に、ふんだくれるだけふんだくってやらないと」と話しながらも、鰻屋の亭主は鰻を捌こうとする。が、しかし、鰻が無い!
なんと、今日は買い出しに行っていなかったのだ! 焦った鰻屋。金魚は?! 先週死んじゃった! ネズミは?! 捕まえられるわけない! なんでもいいから生きてるもんはいねえのか、と騒ぐ旦那に驚いて泣き出したのは赤ん坊。「ちょっとの辛抱だ」とまな板に載せる鰻屋。前を通る男。「何してんだ!」「いや、これからこの赤ん坊を開いて蒲焼にするんです」。何を言っているんだと、男がお金を払い赤ん坊を抱きかかえる。「さぁ、もう大丈夫だぞ」と男は赤子をあやした後に、前の川に投げ捨てた。

最初聞いたときに、衝撃を受けたこの作品。
「んなことあるか!」と思いながらも、その光景を想像してしまうだけでフフッと吹き出してしまいました。
というか、こんな話していいの?! とも思いましたが、その後に禁演落語に含まれていたと聞き、「だろうなぁ」と納得したものです。
今でも、私が一番好きな作品で、馬鹿馬鹿しくも、なんとも落語らしいと感じずにはいられません。
ぜひとも“5代目古今亭志ん生”の語りで聞いていただきたい噺でございます。

終わりに

生前、立川談志が言った「落語とは、人間の業の肯定」という言葉があります。世間で是とされている、努力だ勤勉だ、努力をすれば報われるだのってのは嘘なんじゃないか。落語に登場する人間たちはそのことを知っているんじゃないか。人間は弱いもので、働きたくないし、酒呑んで寝ていたいし、勉強しろったってやりたくなければやらない、むしゃくしゃしたら親も蹴飛ばしたい、努力したって無駄なものは無駄……所詮そういうものじゃないのか、そういう弱い人間の業を落語は肯定してくれてるんじゃないか。と、こう言ったそうです。
たしかになぁ、と思います。
毎日息苦しく生きることだけが、人間として是とされる世間は生きづらいなぁと感じてしまいます。

時には息抜き。
落語でも聞いて、馬鹿馬鹿しくも魅力的な世界に浸ってみませんか?