とは言え、外出自粛の要請が発出されているわけでもなく、第1波のときに比べて市民の意識が緩んでいると言われている。しかし誰もが、いつ、どこで新型コロナウイルスに感染してもおかしくない状況で、我々はどのような予防策をすればよいのだろうか。
心身健康学科や健康栄養学科などを持つ人間総合科学大学(埼玉県さいたま市)では、このほど大学や研究機関などに所属する若手研究者のオンライン交流イベント「心身健康科学サイエンスカフェ」を実施。「感染症と予防行動」をテーマに、心身健康科学博士の田中ゆき氏が人々の感染予防行動を高めるためのアプローチについて意見を交わした。そこで提言されたのが「感染嫌悪」というキーワードだった。
人間総合科学大学は、「こころ・からだ・文化」を統合して学び、人間の全体像を理解するという理念を軸に、心と体のスペシャリストを養成することを目的に2000年、私立大学として初めて通信制の単科大学として開学した。
同学の研究所では、定期的に「心身健康科学サイエンスカフェ」が開催されているが、今回、48回目にして初めてオンライン形式での実施となった。
講師として招かれたのは、心理健康科学の博士で、横浜市会議員としても活動している田中ゆき氏。今回のテーマは、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、心身健康科学の視点から感染予防行動の「心理的アプローチ」について、参加者(58名)とディスカッションが行われた。そこで感染予防行動の促進として「感染嫌悪」というキーワードが田中氏から提言されたのだ。
では「感染嫌悪」とは、いったい何なのだろうか。田中氏によると、過去に行ったインフルエンザ予防行動に関連する予防知識と心理的要因に関する研究において、もっとも重要な要因として「感染嫌悪」が抽出されたという。
感染嫌悪とは、文字通りウイルスに感染することを嫌悪する心理状態のことだが、具体的には「不衛生な物品に触るなど、病原体が付着しやすい状況における“不快感”の自覚」ということ。人間誰しも、不衛生な状況に不快感を持つものだが、これを強く意識することによって新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症に対する「予防行動」を高める効果があるという。
感染拡大の第1波の際、各種メディアで手洗いの励行を叫ばれたことは記憶に新しい。しかし、第2波が襲来している現在、こうした啓蒙は少なくなっている印象。実際、どのくらい手洗いに神経を使っているだろうか。こうした気の緩みは、感染予防行動から逆行していることは言うまでもない。田中氏は「感染嫌悪」についてのチェック項目を挙げ、「感染嫌悪を高めることが、予防行動にもつながる」と提言した。
それでは、実際に「感染嫌悪」がどの程度、自分の中で意識されているか、項目をチェックしてみてほしい。
こうした「感染嫌悪」について、広報物や感染予防品配布などの国や自治体の取り組みと、心身健康科学の研究をマッチングさせることで、感染予防行動への取り組みがより厚くなり、市民の感染症予防行動に対する意識が高まるという。田中氏は今後も、心身健康科学の視点からできることを意見交換し、情報共有していきたいと話した。
もちろん、感染嫌悪に関しての過度な意識は強迫性障害につながるリスクもあると言われている。日常生活への影響も懸念されるため、必ず感染嫌悪が「なんのための行動」で、「どのくらい必要なのか」を意識しておくべきだろう。そして、新型コロナウイルスに関する情報は、必ず信頼できる情報源から実用的なものだけを入手するようにしたい。