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米国大統領選後にも様々ないざこざがあったためようやくといった感が強いが、1月20日にバイデン次期大統領の就任式がついに行われる。この日をもってトランプは“元大統領”になるわけである。
アメリカ大統領引退後、回顧録の出版や講演料でボロ儲けしている大統領も多いが、トランプは異例の大統領であるため、引退後の成功が約束されているとは限らない。
今でこそ引退後に回顧録で富を得る大統領も多いが、かつては引退後に借金苦に陥る大統領もいたという。

南北戦争の英雄でもあった18代目大統領ユリシーズ・グラントは2期8年の任期を終えた後、ジュリア夫人と世界旅行を行い1879年6月には日本を訪問し、明治天皇とも会っている。
しかしその後、財産管理を任せていた証券会社の経営が傾き全財産を失い、その上、多額の借金を負ってしまった。

元大統領の苦難は新聞でも報じられた。
その新聞記事を見たある人物からグラントに回顧録を書かないかとのオファーが舞い込む。その人物とはマーク・トウェイン。「トム・ソーヤーの冒険」や「ハックルベリーフィンの冒険」で知られる人気作家である。
人気作家だった、彼は当時ウェブスター出版社に投資しており、元大統領の回顧録が出れば売れるし、グラントを借金苦から救うこともできると思い、共同経営者に相談もせず、グラントに連絡したという。
トウェインは元大統領に「もし出版すれば原稿料として50万ドルを支払う。承諾さえしてくれれば半分の25万ドルを前金としてすぐに支払う」と条件を提示した。
好条件ではあったもののグラントは迷った。実はこの時、彼は癌におかされており、最後まで書ききれるか確信がなかったためである。しかしながら彼は残される妻のためにも本を執筆することを決めた。
癌の痛みと戦いながらグラントは執筆を続けた。1885年7月16日に回顧録は完成、その7日後にグラントは息を引き取った。
原稿料で彼の最愛の妻ジュリアも金銭的なトラブルから解放された。彼女は夫の死後17年生き、現在はニューヨークのグラント記念堂で仲良く眠っている。
回顧録はヒットを記録。グラントの成功にあやかり、引退後に回顧録を執筆する大統領が増加したとも言われている。


(written by 山崎健治)