国内に100万人以上もの患者がいると言われる「腰椎椎間板ヘルニア」。これまでの治療法では「保存療法」か「手術療法」の二択だったが、2018年からは新たな治療「椎間板内酵素療法(ヘルニコアR)」が登場した。生化学工業が2月17日(水)に開催した報道陣向けセミナーで、その最新治療法が紹介された。

1

セミナーでは20年に渡りヘルニア患者の治療にあたっている、慶應義塾大学医学部 岡田英次朗医師が登壇。腰椎椎間板ヘルニアの実態などが解説された。

2

「腰痛」で悩む人は全国で推定2800万人に上ると言われており、40代から60代においては約4割が腰痛に悩んでいると言われている。一方で腰痛には実にさまざまな症状があり、その中の加齢や変性によるものが「椎間板ヘルニア」となる。

3

「腰椎椎間板ヘルニア」は腰の椎間板から髄核(ずいかく)が飛び出し、近くにある神経を圧迫した結果、足の痛みや痺れが生じるというもの。髄核は20歳代から、繊維輪は30歳代から老化が始まるといわれており、日常的に酷使することによって椎間板は消耗する。それゆえ椎間板ヘルニアには20〜40歳代が比較的かかりやすく、さらに男性は女性と比較し2〜3倍多い。また重労働や激しいスポーツ、長時間のデスクワークを仕事とする人がかかりやすい傾向にある。

4

足の痛みやしびれは片側の足に症状が見られやすく、太ももの後ろからふくらはぎ、すねの外側などに痛みが走りやすい。一方で両足に症状が発生することもあり、また筋肉の麻痺や足の感覚が鈍くなるというケースもあるという。


5

これまでのヘルニア治療は長期「保存療法」と「手術療法」に分けられていた。ヘルニアは自然に症状が改善されることもあるため、薬を使用する「保存療法」が一般的であった。「手術療法」では術後約7日で退院可能なラブ法と、4〜5日間の入院で済む内鏡下椎間板摘出術(MED法)が代表的なものであった。

「医療技術の進歩によって入院日数は短くなってきているものの、手術するタイミングの判断が難しいところ。時間の経過で自然に治癒される場合もあるので、当院では様々な可能性をお伝えして患者様と相談しながら治療法を決定しています」と話す。

6

これまで保存療法か手術という2択のみだったヘルニア治療の新たな選択肢として登場したのが、生化学工業が開発し2018年から保険適用された「ヘルニコアR」だ。これは椎間板に酵素を含んだ薬剤「ヘルニコアR」を直接注射し、ヘルニアによる神経の圧迫を弱めるという治療法だ。通常髄核は水分を含んで膨らんだ状態にあるが、「ヘルニコアR」を注入することで酵素の力で髄核内の保水成分が分解され、神経への圧迫が改善して痛みや痺れを軽減させることができる。


7
 

「ヘルニコアR」投与前のイメージ(左下)では髄核が後方に突出して神経を圧迫しているが、投与後(右下)では髄核のプロテオグリカンを選択的に分解するため、保水能を低下させる。これにより神経根の圧迫も低減されるのだ。

8

「ヘルニコアR」治療では基本的に1回の注射のみで終了する。医療施設にもよるが、1泊入院あるいは日帰りの外来治療が一般的だ。岡田医師が勤務する慶應義塾大学病院では1泊2日入院で治療を実施。穿刺後3時間は安静にし、翌日朝、神経症状の悪化がないことを確認して退院する。仕事の復帰は投与後2日から可能。副作用として一過性の腰痛(5%以上)や、足の痛み、発熱、頭痛(1〜5%未満)、発疹(1%未満)が見られることもあるという。

「自験例では、約7〜8割の患者様に効果が見られました。効果の発現時期は個人差が大きく、3か月くらいかけてゆっくり改善される方もいらっしゃいます」(岡田医師)


9

セミナー後半では生化学工業が行ったアンケート調査をもとにしたトークセッションが開催された。「腰椎椎間板ヘルニア」と診断されたことがある男女400名にアンケート調査を実施したところ、診断された年代においては男女とも30代が最も多く、20代〜40代が約7割を占めていた。

「コロナ禍で生活様式が大きく変化したことで、ヘルニアの症状を訴える患者様が多い。また10代で発症される人もいらっしゃるように、ヘルニアは遺伝的な要素も深く関わっています」(岡田医師)


 
10

「ヘルニアの手術を医師から提案されたが、行わなかった」という理由においては約6割が「手術への不安があった」と回答。また「仕事を長期間休むのは難しいから」「お金がかかるから」という回答も目立った。

「脊椎の手術は一定のリスクを伴うため、不安に感じる患者様が多いのが現状。特にご高齢の方では手術を避けられる傾向にありますね」(岡田医師)


 
11

また在宅勤務の普及により、腰痛がひどくなったという回答者も目立った。岡田医師は「自宅でもオフィス環境を意識することが大切。可能であればPCモニターを使って画面を目の高さに調整し、頭から坐骨の位置をまっすぐにするように心がけることも重要です。仕事の合間にストレッチを行うのも良いでしょう」と話す。


花粉が舞い始めるこれからの季節は、くしゃみで腰の痛みが悪化する可能性もあるとのこと。外出自粛や在宅勤務が長引き、運動不足による健康への影響が心配な今こそ、身体へのメンテナンスも意識したいところだ。