フィンランドの玄関口、ヘルシンキ・ヴァンター空港。この空港からヘルシンキ中心部へ行くには鉄道が便利だ。その鉄道の駅に立つと、誰もが「あれっ」と思うかもしれない。
「マリメッコ」「イッタラ」などの北欧デザインで知られるフィンランドだが、駅は殺風景そのもの。頑丈なコンクリートが一部ではむき出しとなり、天井もとても高い。
実はこの地下にある駅は、戦争などの有事に備えて作られた「シェルター」なのだ。
空港駅だけでなく、ヘルシンキの地下鉄の駅はシェルターとして転用できるように作られている。地下に降りる、地上に上がるエスカレーターも、とても長い。
地下鉄の駅だけではない。その辺にある体育館なども、外観からシェルターらしくも見える。通常は体育館やプールなど、有事の際はシェルターという建物が、フィンランドの至るところにある。食料なども半年分の備蓄があるという。
ロシアによるウクライナの武力紛争は世界に衝撃を与えている。フィンランドはロシアと1300kmにおよぶ長い距離で国境を接しており、首都のヘルシンキとモスクワは1000kmほど、国境からは約160kmしか離れていない。1300kmといえば、日本だと札幌−福岡間に相当する。
以前はフィンランドとロシアを結ぶ鉄道もあったほど、両国は近かった。(地図はGoogle Mapより抜粋)
19世紀ごろにはロシアがフィンランド全土を支配していたが、1917年のロシア革命を機にフィンランドは独立を宣言。二度の世界大戦ではロシアと戦って勝利し、西欧諸国の間でも「中立」な立場をずっと維持してきた歴史がある。
しかしウクライナ情勢を機に、フィンランドはNATO(北大西洋条約機構)への加盟に前向きな姿勢を表明。ロシアはフィンランドとの国境への武器配備を強化するなどけん制をかけているものの、フィンランドではもともと有事への備えがあり、銃訓練に参加する市民も増えているという。
長年、大国ロシアの脅威にさらされつつも、有事の備えをしてきたフィンランド。地下鉄の駅をシェルターとして利用するのは、ウクライナの件で日本でもよく知られるようになった。
一方、同じロシアと陸続きではないにしろ、国境を接する日本は、果たして備えているのだろうか。日本にも地下鉄が多くあり、もちろん地下に駅があるが、他国と比較すると軒並み「深さが足りない」という。確かにフィンランドの駅と比べると、日本の地下鉄の駅は地下に降りてすぐホーム、つまりとても浅い。ちなみに、PO法人日本核シェルター協会による核シェルターの普及率(2002年、シェルターに収容できる国民の割合)は、日本はたった0.02%とのこと。フィンランドと日本の有事に対する差を、地下鉄の駅に立って痛感させられ、危機感を覚えた。
(Written by A. Shikama)