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ゴールドウィンは構造タンパク質「Brewed Protein™️ 繊維」を使用した製品を「THE NORTH FACE」「Goldwin」「nanamica」「THE NORTH FACE PURPLE LABEL」「WOOLRICH」の 5ブランドで今秋、一斉発売すると発表。3月24日、都内にてメディア向け発表会が実施された。

ゴールドウインがSpiber(山形・鶴岡市)と2015年から共同開発を行なっている「Brewed Protein™️(ブリュード・プロテイン™️)繊維」。これは、主原料に石油由来や動物由来の材料ではなく、植物由来の糖類などを使用した新素材で、環境課題へのソリューションとして注目を集めている。
「Brewed Protein™️ 繊維」を用いた製品はこれまでも販売していたが、Tシャツ数百枚程度であった。Spiberが2021年にタイに建設したプラントが本格稼働したことで、量産体制での一般販売が実現した。「THE NORTH FACE」「Goldwin」「nanamica」「THE NORTH FACE PURPLE LABEL」「WOOLRICH」合わせて数千程度の展開を予定。「Goldwin」からはジャケット、「THE NORTH FACE」ではパーカー、ダウンウェア、「nanamica」ではコート、「WOOLRICH」ではパーカーなどで「Brewed Protein™️ 繊維」を使用する。今年9月にはこれらのブランドを一度に集めたポップアップストアの開業を丸の内で計画中だ。

THE NORTH FACEと WOOLRICHについては海外の事業者と連携し、アメリカや中国、フランスなどグローバルでの販売を予定。さらにGoldwinと nanamicaについては、海外の直営店での販売も計画しているという。

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同社代表取締役社長の渡辺貴生氏は「向こう数年で、Brewed Protein™️ 繊維を使用した製品を数万着程度生産できる見通しが立った。コロナの終息を見据え、海外からのお客様も増えてくると予想している。今回のプロジェクトを機に、環境負荷を軽減させる素材の導入をさらに加速化させていきたい」と意気込んだ。

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Spiber取締役兼代表執行役の関山和秀氏による、「Brewed Protein™️繊維」のプレゼンテーションも実施。コンピューターサイエンスに基づいたバイオテクノロジーが産業発展に果たす役割が述べられた。

「地球の生態系に目を向けると、全て循環可能な素材で形成されていることがわかる。未来を考える上で、キーワードとなるのが“循環”。私たち人間も自然の生態系の一部であり、地球のリソースをいかに利用するかと考え、行き着いたのが「Brewed Protein™️繊維」だった。これまでは山形県の工場で作っていたため、生産量は限られていた。コロナで色々大変だったが、このほど量産できるフェーズに入った。人類が生き残る一つのソリューションとして、この技術を世間に普及させていきたい」

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後半では、慶應義塾大学医学部教授 宮田 裕章氏、ファッションデザイナーの中里唯馬氏、 Deportare Partner代表でありゴールドウイン社外取締役を務める為末大をメンバーに加え、「持続可能な社会を実現するためのアクション」 をテーマにパネルディスカッションが行われた。

「我々が扱うスポーツウェアのほとんどが合成繊維であったが、廃棄という最終地点をあまり意識していなかった。しかし10年前に環境問題に直面して以来、循環をキーワードに考えるようになった。実現には社会の仕組み化も必要。多くのアパレルメーカーや生産者にこの材料を使ってもらえる機会を増やし、新たな制度を作り上げていきたい」(渡辺貴生氏)

「衣服のデザインにおいて、美しさの定義を改めて見つめ直すフェーズに来ている。生産背景や衣服の循環など、目に見えない部分についても設計していくことが重要。デザイナーは生み出すことに情熱を注ぐが、最終地点についてはあまり考えてこなかった。同じくらいの労力を費やせば、世界は変わるはず」(中里唯馬氏)



「“ゴミにならない”ということがBrewed Protein™️の強み。これまでにはなかった、作ったもの=資源という流れを構築したことで、新たなモノづくりにつなぐことができた。社会へどのようなインパクトを与えられるか、楽しみで仕方がない」(関山和秀氏)

「“何を着るか”ということを考えるのも、アーティフィシャル・ライフの一つ。長い歴史の中で起こった農業革命や産業革命は、植物が作ってきたものをある意味、奪い合っていた。これからの時代こそ、植物が生み出したものを利用させてもらうような姿勢で向き合うことが求められる。」(宮田 裕章氏)

「自然界にはエコシステムが確立されている。これまではそのエコシステムに対し、人間側が人工物で埋め尽くし、環境破壊していた。持続可能な未来に向けては、自然界と人間社会をどのように調和させていくかが重要なチャレンジ。自然界へどのようにデザインしていくかを検討することが求められるフェーズに来ている」(為末大)

環境への負荷が大きいと言われるアパレル業界において、革新的な素材として話題を呼ぶ「Brewed Protein™️」。国内外での販売活動によって、社会にどのようなインパクトを与えるのか、各方面から注目が集まりそうだ。