骨折や寝たきり、歩行困難のリスクにもつながりかねない高齢者の転倒。実はその原因に「爪」が関係しているケースが多いそうです。科研製薬株式会社と株式会社インターネットインフィニティーは、爪の疾患「爪白癬(つめはくせん)」の治療の重要性を啓発するため、「指先まで見逃さないで!介護現場における『爪白癬』プレスセミナー」を5月19日、対面/オンラインのハイブリッド式で開催。日常生活への影響やセルフチェックの方法、気を付けたいポイントなどを解説しました。

今回はプレスセミナー当日の様子や爪白癬の原因、症状について、詳しくご紹介します。

気づきにくい「爪白癬」とは?

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爪白癬は簡単に言えば爪の水虫。足の水虫を放置することで爪に白癬菌(いわゆる水虫菌)が侵入して感染し、爪の色が白く濁る、黄白色になる、爪の厚みが増して変形したり、爪がボロボロに崩れやすくなったりしてしまう疾患です。

爪の下から検体を採取し、顕微鏡で見て菌糸が発見された場合に爪白癬と診断が確定します。飲み薬や塗り薬で治療が可能ですが、痛みやかゆみなどの自覚症状がないため、本人はもちろん、家族、介護現場でも見逃されてしまうことも多く、そもそも受診につながらないケースも多々見られるそうです。

爪の異変は転倒の原因にも…


2 高山先生
爪の重要性を語る高山先生

セミナーに登壇した埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長の高山かおる先生によると、爪の異変は転倒リスクと深く関わっているとのこと。高山先生は、足の爪は歩くときや立つときに体を支える上で大切な役割を果たしていて、爪は単なる皮膚の一部ではなく、「小さな運動器」だと解説しました。

セミナーでは足のトラブルと転倒の関係について、「足に何らかの問題を抱えていると、過去1年間に転倒しているリスクが高い」という研究結果や、足の親指の爪の肥厚(分厚くなること)は下肢機能の低下をもたらすというデータも紹介されました。体を支える爪が本来の役割を果たせないと、歩きづらさやふらつきなど、歩行への影響や転倒のリスクが高まり、日常生活に支障をきたしてしまうのです。

一方で、分厚くなった爪を整えるフットケアを行ったところ、下肢機能が向上し、医療費削減につながったという報告もあり、爪の健康がいかに転倒防止や健康寿命の延伸につながるかが良くわかります。

介護現場でも未だに見逃されがち


3 小関様
科研製薬株式会社営業本部長 小関智之さん


4 別宮様
株式会社インターネットインフィニティー代表取締役社長 別宮圭一さん

ここまでセミナーを聴いて高齢者が元気に自分の足で歩き続けるためにも爪の健康が大切だということが分かってきました。にもかかわらず、介護や医療の現場でも未だに爪の変化は単なる加齢によるものと捉えられがちで、受診につながらないケースが多いという現状があります。

今回のセミナーでは、そんな現状を打破するべく、科研製薬とインターネットインフィニティーの2社が合同で行った疾患啓発とアンケートの結果も公表されました。両社はケアマネジャー向けに疾患啓発のためのチラシを作成して配布。受診勧奨を実施するとともに、爪白癬に関する意識調査を実施しました。

ケアマネジャーに対して「疾患啓発を受ける前と後で変化はあったか」を問うと、「爪の観察・情報収集をするようになった」という人が啓発後は76.4%という結果に。このほか関係者間での情報共有や事業所内での研修の実施につながったという声も聞かれました。

また、受診勧奨の効果検証も実施。アンケートによると、在宅介護の現場では63%に爪の変色・変形が認められ、医師に相談した80.5%が爪白癬と診断されたという結果に。ケアマネジャーのアセスメントの重要性が明らかとなりました。

トークセッションでは観察、フットケアの重要性を指摘


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(左から)大場先生、菅野先生、高山先生

セミナーではフットケアのスペシャリストとして高山さんのほか、社会医療法人社団 カレスサッポロ 北光記念病院・診療技術部門の菅野智美先生(看護師)と一般社団法人フットヘルパー協会会長の大場マッキー広美先生(介護福祉士)も登壇。3名によるトークセッションも行われました。

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トークセッションで3人は、爪白癬の発見と治療に繋げる重要性を訴えるとともに、受診につながらない原因を「爪白癬が日常生活をゆるがす原因となる危機感を持っていない方が介護、医療界でもまだまだ多い」と指摘。高齢者は体が硬かったりして自分で見えないこともあるため、ご家族や介護者が異変に気付くことが大切だと解説していました。

また、「爪が白色や黄色に濁っている」「爪が厚くなっていたり、ぼろぼろと欠けたりする」といったセルフチェックのポイントも紹介され、現場でできるフットケアとして「まずは足を毎日洗うこと。そして足の状態をしっかり見てあげること」と大場先生。高山先生は「あやしいなと思ったら皮膚科専門医を受診してほしい」と呼び掛けました。