日本の夏の風物詩である高校野球、甲子園。どのスポーツもそうだが、時代に合わせ高校野球も年々ルールの変更や改正がおこなわれており、最近では延長10回からノーアウト1・2塁で攻撃が始まるタイブレーク制や、登録選手数が18人から20人に増加される変更があった。特にタイブレーク制は競技性を大きく変える変更であったため、賛否両論が巻き起こった。しかし、令和6年、2024年の春のセンバツからまたひとつ競技に大きな影響を与えるであろうルール改正が行われる。それが金属バットの変更である。
金属バットの基準の変更が行われるのは、2024年の春のセンバツから。もちろん夏の予選や甲子園でも適用される。新基準の金属バットは現行の金属バットよりも低反発になり、打球が飛ばなくなる。これに移行する理由はいくつかある。打球速度が遅くなることによって、野手や投手の安全性を確保すること(特に投手ライナーなど)、現在の金属バットは芯が広く飛びやすいため、打高投低になりやすく、投手の球数も多くなってしまう環境を改善する、などが挙げられる。
低反発バットには日本球界を揺るがすような大きな危険性がある…
低反発金属バットを使用することで、金属と木製バットの違いや差が小さくなり、大学や社会人、そしてプロへと進んだ場合の対応がしやすくなるというメリットを挙げているファンもいる。確かにその通りではあるのだが、低反発のバットを高校生が使うということには大きな落とし穴がある。
お隣、韓国の高校野球では、2005年から国際大会の規定に沿い、木製バットの使用が義務付けられている。その結果、韓国の高校野球の全国大会の本塁打の数は、金属バットを使用していた2004年の273本に比べ、2005年はなんと55本に減少。その後も100本を超えない年が増えた。2014年から飛びやすいボールに変更され、本塁打数は回復したが、それでも本塁打が出にくい環境であることは間違いない。
このような環境になれば、指導者はどうするだろうか。甲子園に出場するような高校の野球部員であっても、高校生は筋力がまだまだ未熟。本塁打や長打を狙うよりも、とにかくバットに当てることを優先して教えるようになり、バントやエンドラン、盗塁といった小技が重宝される。長距離打者が極端に減り、高校生の打力が低下すると、結局はプロ野球の打力低下にもつながりかねない。実際に韓国代表が近年の国際大会で不調が続く原因について、高校生への木製バット導入による長距離砲不足を挙げている有識者もいる。
低反発バットによって選手のプレーの幅が狭まり、初めから選択肢を無くして型にはめて指導するのは子どもたちがあまりにもかわいそうである。今回のルール変更は低反発とはいえ金属バットであることから、ここまで言うのは大袈裟かもしれない。打球速度が速すぎて投手や野手の安全性が保たれないというのも大きな問題である。しかし行き過ぎた“低反発化”は高校野球だけではなく日本球界を揺るがす大きな問題になりかねない。
そもそも高校生が木製バットに慣れる必要などあるのだろうか。
大学、社会人、ましてやプロに行くような選手は本当に一握りで、高校球児のほとんどが高校野球引退を機にプレイヤーから離れていく。そんな限られている時間だからこそ、打球を遠くに飛ばすという野球の醍醐味ともいえるプレーを存分に楽しんでもらいたいと思う。
(Written by 大井川鉄朗)