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日本勢のメダルラッシュで沸いたパリオリンピックは、日本選手団が合計45個ものメダルをもたらし、メダル獲得数はアメリカ・中国に次いで世界第3位となりました。1896年のアテネ大会から始まった長いオリンピックの歴史の中、日本選手が初めてメダルを獲得したのは何の競技だったのでしょうか?

日本選手が初めてオリンピックに参加したのは1912年のストックホルム大会、その後の1920年のアントワープ大会で日本選手初のメダルをもたらしたのは、男子テニス競技に出場した熊谷一弥(くまがいいちや)さん。左腕から放たれる強烈なフォアハンドで勝ち進み、男子シングルス・ダブルスともに銀メダルを獲得、これが日本選手初のオリンピックでのメダルとなりました。ちなみに2016年リオデジャネイロ大会で、テニスの錦織圭選手が男子シングルスの3位決定戦、スペインのラファエルナダルとの激闘を制し、銅メダルを獲得したのはテニス競技96年ぶりの快挙でした。

日本初の五輪メダリストとなった熊谷選手、実はもともと軟式テニスの選手だったのです。イギリスからテニスが伝わるも当時のボールは高級品、安価なゴム製のボールを使用したテニスが普及していました。時代の流れで所属する慶應義塾大の庭球部がテニスに転向したことで、熊谷選手はテニス選手として国際舞台へと選出、1918年の全米選手権で4強入りを果たしました。テニス転向後も軟式の握りでのプレーを貫き、ウエスタングリップで打ち込む強烈なドライブボールは、世界のトップ選手たちを大いに苦しめました。初出場したオリンピックでは惜しくも決勝で敗れてしまいますが、日本に初めてオリンピックメダルをもたらした偉大な功績は、日本スポーツ史の伝説として語り継がれています。

1890年頃から国産ボールの製造が始まり、本格的に全国へと広まっていくことになる軟式テニスは、平成のルール改正で「ソフトテニス」と呼び方が変わりました。今では中学生に人気の部活ランキングで常に上位に入るソフトテニスですが、残念ながら競技参加国が足りないため、オリンピックの正式種目に選ばれていないのが現状です。今年9月に韓国で開催された世界ソフトテニス選手権では、男子が金メダル(大会3連覇)、女子が銀メダル(惜しくも2連覇ならず)を獲得しましたが、世界一に輝いても影響力あるメディアで大きく報じられることはありません。しかし日本スポーツ界に初のオリンピックメダルをもたらし、未だ2人しかいないテニス競技のメダリストとして世界と戦ったプレーの根幹に、日本生まれのソフトテニスが関係していた事実はとても感慨深く、1人のソフトテニスファンとして喜ばしい限りであります。

(Written by 山岸悠也)