新生活の慌しい日々の中で、忘れがちになってしまういろいろな支払い。電気代を払わなければ電気が、水道代を払わなければ水道が止まる。光熱費の場合は、「ライフラインが断たれる」という実にわかりやすい方法によって、料金の未払いを優しく教えてくれる。止められる順番は大抵電話、電気、ガス、水道の順番で、なくても生きていけるものから、徐々にないと生きていけないものにシフトしていくのもニクい演出だ。

月々に支払いが必要なもので唯一「止められる」ということがないのが、家賃だ。大家さんも鬼じゃないし、まさか突然追い出されることはないだろうと思うかもしれないが、最近の家賃の催促には、電気や水道の斜め上を行く方法が存在する。

千葉県柏市にある火ノ口不動産では、家賃滞納者が家に出入りするたびに家賃の未払いを知らせる恐るべき装置が開発されている。その名も「不動礼子」。「滞納家賃督促装置」という名称で特許取得されている。主に火ノ口不動産が管理している部屋に対して使用しているのだが、他の不動産業者に向けても販売しており、３万８０００円也。

しかし、実際に取り付けられた例はたった一度。不動礼子を取り付けるにあたって、入居前にビデオを見てもらい、家賃滞納があれば取り付ける旨の承諾書にサインをしてもらうことが必要なのだが、大抵の入居者は装着を恐れて滞納しなくなるためだという。

火ノ口不動産の経営者、火ノ口弘毅さんは、「不動礼子」のほかにも多くの発明で特許を取得し、「柏の発明家」と呼ばれているのだとか。現在イチオシの発明は、子供から大人まで気軽に発芽玄米を食べられることを目指した「発芽玄米餅」。ご自身が病気を患ったのがきっかけに発芽玄米の研究をはじめ、玄米を短時間で発芽させる方法の開発や味を追及し、ついに商品化された。すでにじわじわと口コミで広っており、遠方では佐賀県からの購入客もいるという。現在はインターネット販売に向けて調整中。火ノ口さんは発芽玄米餅に約９０００万円投じているというから、これからの展開に期待したいところだ。

現在は発芽玄米餅に力を注いでいることもあり、不動礼子の宣伝活動はほとんど行っていないという。家賃滞納督促装置は、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」に取り上げられるなど、メディアでの紹介も多い。しかし、メディアで紹介されると、不動産業者以外からも問い合わせが殺到するようになり、宣伝をすることはなくなったのだとか。家賃督促の抑止力とする目的以外で使用はすべてお断りしている。

アインシュタインの原爆、ノーベルのダイナマイトのように必ずしも発明者の意図しない方向に発明が利用されてしまうのは、歴史に名を残す発明家が必ず通る道なのかもしれない。

（Photo by rick）