20090716_01

2009年ゴールデンウィーク。演劇のメッカ・下北沢を代表する劇場の一つ「スズナリ」にて、ちょっと珍しいイベントが催された。ライブペイントというのはご存知だろうか? お客さんを目の前にして、まさにその場で絵を描く「絵のライブ」のことであるが、この日スズナリで行われたライブペイントは少々様子が違った。

音楽でも演劇でも、「アドリブ」というものが存在するのは周知の事実。名演奏者や名優のアドリブによって、世界観がグンと広がった作品は数知れず。
しかし、たとえば音楽と演劇のコラボレーションステージがあったとして、お互いがアドリブし合うなんていうステージは聞いたことがあるだろうか? ましてや、美術・音楽・空間・舞踏という多ジャンルのアーティストが、同じステージで、打ち合わせも一切なしで、お互いのパフォーマンスを見ながらその場で自分も合わせていく、そんなアドリブのみのステージがあるなんてことは聞いたことがあるだろうか?
それは、確固たる自分の世界を持ちながらも相手の力を認め信じることが出来る、そんな各分野の一流が集まったときにのみ存在を可能とし、そしてそれは「ゴールドフィンガーズ(黄金指技団)」という集団名で存在している。

今回お送りする記事は、二人の絵師・東學と鉄秀を中心に、音師や舞師も加わって結成されたゴールドフィンガーズというアート集団のライブレポートである。

主な構成メンバーであるが、
東學…絵師。演劇・TV等のアートディレクターとして活躍している浮世絵師。
鉄秀…絵師。ストリートを使ったライブペインティングや麿赤児氏主宰の舞踏集団「大駱駝艦」の宣伝美術も手がける。
建一郎…音師。この世の全ての音をセッションで使いこなすミュージシャン。舞台やダンサーへの楽曲提供など、活動の幅は多岐にわたる。
AKASHI…音師。バンド活動や数々のバンドツアー参加を経て、現在は様々なアーティストとのコラボレーションを展開中。ゴールドフィンガーズの表現に不可欠な音響を担当。
向雲太郎…舞師。世界的に活躍する舞踏集団・大駱駝艦の中心メンバー。
浅野彰一…督師。ゴールドフィンガーズのステージを取り仕切る。その正体は、関西を中心に活躍する人気俳優。
三村康仁…企師。ゴールドフィンガーズのプロデューサー。大阪を中心に様々な大型イベントや展覧会を企画する。

〜開演〜
照明もない真っ暗な劇場内に、音師が奏でる心地よいノイズが聞こえてくる。これから何かが生まれる期待と、何が生まれるのかがわからない不安を表現したかのような音だ。そして、二つの照明がゆっくりと灯る。舞台には、高さ約2m・幅約6mの巨大な白い和紙が見えてくる。照明の中に、二人の絵師が座している。

20090716_02

ゆっくりと絵師の一人が立ち上がる。そして大体15分くらいを使ってその絵師は、筆を使い、自らの手を使い、全身を使い、舞うように和紙に何かを描き始める。その間はもう一人の絵師は絵を背にして座して待つ。
そして交代。
それを2往復程して、最後は二人で同時に描いていく。計1時間15分程。
なにが面白いって、描かれる絵がどんどん変化していくのである。
最初は和紙の右に女性、左にドクロが描かれていた。けれど、絵師が交代したら、今度は中央にハートマークを描いていったかと思うとそれが蓮の花になり、次に交代したときは左は闇、右の女性はドクロに描き変えられ、その次は全てを闇にされ中央に大きな心臓、そして最後に二人同時にこの完成形(左写真)を描いた。

20090716_0320090716_04
(ちなみに、左と右の写真は同じステージ写真である。右写真に写っている花の絵は、完成形では消えてしまっている。)

筆の動きに合わせて、音も照明も変わっていく。もちろん、打ち合わせは一切なし。今まさに目の前で行われているパフォーマンスに合わせ、自分の世界を出さなければいけない。
「これは禅問答に近いな」
絵師の一人はこう言う。
「自分はこう表現したぞ。お前はどうだ!?」
というやり取りを、声には一切せず、自分の表現の世界のみで戦いあうのだ。
そして、決して自分の「我」のみを出すのではなく、
「あそこであんな音を出してきたから、どうしようかと思ったよ(笑)」
といった具合に、相手の表現を受け入れるキャパの広さも必要な世界。

ゴールドフィンガーズは、大阪を中心に活動しているが、最近では東京にも進出してきている。興味ある方は、HPを随時チェックしてみるといいだろう。

ゴールドフィンガーズ
http://gold-fingers.net/

(Written by 川上ルイベ)