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夏真っ盛り。スイカのおいしい季節である。
毎年この時期になると、誰からともなく「スイカの種を食べると盲腸になる」というまことしやかな話が出てくる。スイカ以外にも、ブドウなど、とにかく種関係での話題が多い。筆者なんて、幼稚園の頃「スイカの種50個食べると盲腸になるんだよ」と教わって以来、間違えて飲み込んだりするたびに「まだ7個だから大丈夫。」などと自分に言い聞かせたものである。大人になってからはさすがに数えていないけれど、未だにその手の病気にはなったことがない。
で、はたしてスイカの種で盲腸になるっていうのは本当なのか!?

かんたんに言ってしまえば、スイカの種を食べても盲腸になるわけではない。
しかし、だからと言って「絶対だね? ぜーーーーったい、スイカの種を食べても盲腸にならないんだね???」と突っ込まれて、「絶対平気です。」とは言い切れない。
・・・・・なんだかよくわからない? では、もう少しわかりやすく・・・・・

そもそも、一般にみんなが「もうちょう」と呼んでいる病気、あれは正式には「虫垂炎」という。医学生のスケッチノートを披露しよう。
 
20090809_02食べ物の通り道は、かんたんに「胃→小腸→大腸」と言われるが、ご覧のとおり、大腸は順に「盲腸」「上行結腸」「横行結腸」「下行結腸」「S状結腸」「直腸」「肛門」という部位に分かれている。盲腸は、小腸からつながっている、ちょうど大腸のはじまりの部分だ。そして、話題の虫垂は、盲腸の下端に、ちょこんとぶら下がっている。長さは5僂、もうちょっとくらい。急性炎症を起こして病院に運ばれて手術を受けたりするのは、ココのことだ。英語ではappendix。辞書を引くとわかるが、「付録」という意味の言葉だ。この失礼な命名に反抗して、ときどき炎症を起こしては自己をアピールする・・・・・というのは冗談。(でも、appendixまでは本当ですよ〜、Drたちは虫垂炎のことを略称で「アッペ」と言ったりします。)
この虫垂が炎症を起こした状態を「虫垂炎」なのだが、俗に「盲腸炎」とも呼ばれている。虫垂にはリンパ組織が発達していて、しかも構造上行き止まりの形をしているので、ひとたび炎症が起こるとなかなか治まらない。
虫垂炎の原因、実は「これ!!」と解明されてはいない。何かの理由で虫垂の内部が狭くなり、分泌物や血液の行き来がしづらくなると、細菌が繁殖しやすくなり、炎症がおきやすくなる。だから、直接的には「細菌感染」ということになるのだが、その背景には、食生活の乱れや過労、風邪、便秘、寄生虫、腫瘍などのいろいろなきっかけが存在する。
さて、微妙なのはココから。その「いろいろなきっかけ」の中には、「異物」というのもあるのだ。つまり、スイカの種が虫垂の入り口を塞いでしまい、それがきっかけで虫垂炎に・・・・・という話、絶対にないとは言い切れない。溶けにくく消化しにくいものならばあり得るわけだから、フルーツの種以外に、皮などでも起こるかもしれない。
しかし、スケッチの図からもわかるとおり、食べたスイカの種が虫垂の入り口を塞ぐといっても、それはまさに偶然としか言いようがないだろう。スイカの種と限定する必然性もない。(むしろ、スイカの種には粘着性がないので塞ぎにくいという意見もある。)
ではなぜ「スイカの種を食べると盲腸になる」なんて言われるようになったのか? これはどうも、手術の時、炎症を起こした虫垂がブドウの種に見えたというのが始まりで、その後スイカにも波及したらしい。だが、「単に親が子供に食べ方のしつけをしたくてそう教えただけ」という異説も・・・・・

意外と知らなかった虫垂炎。少なくとも、スイカの種に戦々恐々とする必要はなさそうだ。でも、だからといって丸飲みは推奨できない。消化が悪く、ふつうに胃腸に負担をかけてしまう。冷やしたスイカは夏の格別のごちそうであるが、くれぐれも、おなかは大切に。

【参考文献】
内科学(朝倉)
人体の正常構造と機能
病理学
STEP内科学 他

(Written by S.aureus)
(Photo by joctaviothomas