20090813_01

旧暦の8月1日を「八朔(はっさく)」と言う。いまの暦では9月半ばだ。
香川県の西讃地方(いまの丸亀、仲多度、三豊)では、この日に「八朔の節句」または「馬節句」という行事をする。これは、男の子の健やかな成長を願う行事だ。ちょうど、こどもの日(=端午の節句)と同じように。

八朔の日、西讃地方では、だんごの馬を作って飾る。
「だんごの馬」と聞いて、当初、筆者はお盆に飾るキュウリの馬のような簡単なものを想像していたのだが、実際はまるで違っていた。写真のとおりの立派なもので、猛々しくいななく馬が見事にだんごで表現されている。

だんごの材料は、米粉ともち米、そして砂糖少々。煉り、蒸し、杵でついただんごを骨組につけ、馬の形を作っていく。体形のあとは、ガラスの目、棕櫚のたてがみ、それにしっぽや歯がつけられる。歯茎や舌や鼻の穴までもが念入りに表現され、いまにもいななきそうな馬が出来上がったら、紅白の手綱と五色の帯で飾る。こうしてできた立派な馬は、武者人形や張り子のトラ、鶴亀のだんご菓子、目出度い(だんご鯛)などといっしょに、男の子のいる家庭に飾られる。

八朔の節句のお祝いが終わると、このだんご馬は細かく切り分けられ、お祝いに駆けつけた人々や近所、親戚たちに振舞われる。ほのかな甘みがあるので、そのまま焼いて食べてもよし、醤油や黄粉をからめるもよし。ほのぼのとした、昔ながらの行事の姿が目に浮かぶ。

このだんご馬の歴史は、かなり深い。一説には、保元の乱に敗れて讃岐に流されてきた崇徳上皇を慰めようとだんごの馬を作って献上したのが始まりとか。また、江戸時代の丸亀藩の馬術の名手、曲垣平九郎にあやかって、という説も。
丸亀の盆踊りの歌には、こんな一節もある。

    エーヤ 曲垣の平九郎 愛宕の山のエエ 石段一気にかけ登り
    馬上ゆたかに白梅手折りて ほほ笑む姿 日本一 それをばたたえて
    山崎公が 今に残せしだんご馬

だんご馬は、この地域のいくつかの餅屋、菓子屋で作られる。スーパーなどでは見かけない。最近は節句のお祝いをする家庭が減ってきているというが、古式ゆかしくどこか懐かしいこんな行事は、どうか忘れ去られずにいてほしいと願う。

(Written by S.aureus)