ボゼ

この夏、46年ぶりの皆既日食で話題を集めた鹿児島県十島村・悪石島。皆既日食はあいにくの結果に終ったけれど、悪石島には毎年「あるもの」が現れている。

体長のほぼ半分ほどを占める大きな顔には、ぎょろっとした目や大きな口。身体はビロウの葉で覆われ、手には赤土のついた棒を持った異形の神。その名は・・・ボゼ。

ボゼは旧暦の7月16日、悪石島のお盆の最後に現れる、豊穣と繁栄を祈る神として親しまれている。
悪石島では1週間に渡って盆行事が行われているが、旧暦7月16日も人々が盆踊りをしているところへと現れ、人々を追いかけ、赤土のついた棒で突き、また追いかける…そして盆踊りの輪が完全に崩れてしまうとまたどこへともなく帰っていく。その時間、10分足らず。普段は人口が70余名の静かな島が、この時は歓声と悲鳴と笑い声が入り乱れ、なんとも賑やかになる。ボゼは島外不出とされていて、同じ十島村の村民でも住む島が異なれば一度も本物を見たことがないという村民もいるそうだ。

そんな貴重なボゼを見るツアーが今年も9月に行われる。十島村営フェリーの船客と荷物の受付などを行う中川運輸トラベルが主催するボゼ祭りツアーは、移動手段はもちろん村営のフェリー「としま」。スケジュールは1日目の午後11時に鹿児島港を出港し、翌日の昼頃に悪石島に到着。その日の夕方にはボゼ祭りのクライマックスを見学し、翌日フェリーで鹿児島へと帰る3日コースで、大人1人3万5000円。
20090902_02これまでにも個人で島へ渡りキャンプをしながらボゼ祭りを見物する人たちがいたことから、2003年から正式なツアーとして実施されていて、多い年は70名ほど、平均すると50名ほどの参加者があるという。60〜70代の参加者が多く、鹿児島県内はもとより全国から「一度はボゼを見てみたくて」という参加者がほとんどだとか。

何を隠そう私も2年前にこのツアーに参加したのだが、悪石島も同じ鹿児島県のはずなのに、海の色も山の緑も空の色もひと際濃くて、県本土とは全く違う。盆という日本独特の風習に、南方の島々の神様を思わせるボゼが現れたあのひと時は、まるで遠い南の国に迷い込んだような錯覚を覚えたものだ。
来年以降のツアーについては未定だが、ちょっと不気味で、でもよく見ると愛嬌がある顔をしているボゼ、「わざわざ」会いに行くと世界観が変わるかも。

中川運輸トラベル
電話 099-226-8518
※今年のツアーは8月25日で受付終了しました

(Written by おばらけいこ)